研究課題/領域番号 |
26870671
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
河野 昭彦 金沢工業大学, 工学部, 講師 (40597689)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | PTC特性制御 / 導電性ポリマーコンポジット |
研究実績の概要 |
本研究は、二次電池等の蓄電デバイスの安全性向上に向けた、電極間や外部回路の短絡防止技術に関するものである。具体的には、絶縁性のポリマーに導電性微粒子を分散させた導電性ポリマーコンポジットのPTC特性(温度上昇による電気抵抗率の増大現象。本研究では、特に温度上昇により抵抗率が桁違いに増大し、導体/絶縁体相転移を起すような材料を取り上げている)の制御、および蓄電デバイスへの適用に向けた自己回復性電流遮断特性に関する要素技術開発を進めている。 本年度は、主に『コンポジットにおけるPTC特性発現温度の制御法の構築』を進めた。マトリックスとなるポリマーには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を検討した。これは、PVDFが比較的高融点のポリマーである事に加え、蓄電デバイス電極作製時に活物質粒子を結着させるためのバインダーとして用いられ、蓄電デバイスとの相性が良いと考えたためである。また、導電性微粒子には、粒径がμmオーダ、形状がフィラメント状のNi微粒子を用いた。この材料系からなるコンポジットを作製しPTC特性を解析したところ、Ni充填率を20~30vol%の範囲で制御することにより、PTC特性発現温度を約60~150℃の範囲で系統的に変化させることが出来た。これらの材料は、Ni充填率に関わらず室温時の抵抗率が10Ωcm、高温時の抵抗率が1E8Ωcmであり、室温における良好な導電性と高温おける良好な絶縁性を両立した。また、本材料では、コンポジット系のPTC材料においてよく観測される高温領域でのNTC特性(温度上昇により抵抗率が減少する特性)が見られなかった。これは、本材料を電流遮断素子へ展開しようとした場合、良い特性と考えている。また、本材料に昇温/降温繰り返しを適用しPTC特性のサイクル性を評価したところ、特性の劣化は観測されず良好なサイクル性を有することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に実施予定であった『コンポジットにおけるPTC特性発現温度の制御法の構築』に関する検討は順調に進んでいる。すなわち、同一ポリマー(PVDF)、および同一導電性微粒子(Ni微粒子)からなるコンポジットにおいて、Ni充填率を制御することにより、室温時の抵抗率、高温時の抵抗率を劣化させることなくPTC特性発現温度が制御できる技術が確立されつつある。また、PTC特性を示すコンポジットを蓄電デバイス電極へ適用する場合、コンポジットの室温時の抵抗率は低い方が良い。これは、コンポジットの室温時の抵抗率が高いと蓄電デバイス電極自身の高抵抗化に繋がり、IR損(I:充放電電流、R:抵抗)と呼ばれる充放電時の損失に繋がるためである。ここで、例えば電気二重層キャパシタ(EDLC)における電極の電子的な抵抗率は1000Ωcm以下を狙って作製され、本研究にて開発したコンポジットの室温抵抗率に比較し高い。すなわち、蓄電デバイス電極と開発したコンポジットを複合しても、蓄電デバイス電極の電子的な抵抗率はさほど劣化しないことが期待される。一方、上記の実験的検討に比較し、PTC特性の理論解析はまだ十分とは言えないため、同解析は平成27年度に実施予定の『コンポジットからなる自己回復性電流遮断素子の試作と動作検証』、『蓄電デバイスへの実装と動作検証』と並行して継続実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、『コンポジットからなる自己回復性電流遮断素子の試作と動作検証』のため、PTC特性発現温度の異なるコンポジットにより素子を試作する。素子構造は他の因子の混入を避けるため簡便な構造とし、具体的にはコンポジットの成形板の両面に電極として金属箔を熱融着した構造を想定している。この素子に種々の大きさの電流を流し、電流遮断に至るまでの時間や遮断性能の繰り返し性を評価する。もし、コンポジットの種類を変えても素子の動作に明確な違いが生じない場合は、材料選定・設計にフィードバックして改善する。また同検討を行うに当たり、PTC特性の理論解析を深化し、物性論的視点で材料選定・設計を行う。 次に、『蓄電デバイスへの実装と動作検証』のため、EDLC電極とコンポジットの複合化を検討する。複合化は、電極活物質層/コンポジット層/集電箔の3層構造にて実施する。本電極にてEDLCを作製し、過電流発生時、異常発熱時のセル自動シャットダウン機能を評価する。なお、コンポジットのEDLC電極への実装は困難を生じる可能性が高い。この場合は本検討を減速し、『コンポジットからなる自己回復性電流遮断素子の試作と動作検証』の達成に注力する対応を取る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施予定であった『コンポジットにおけるPTC特性発現温度の制御法の構築』が順調に進んだため、研究が難航した際の研究調査・情報収集のために予定していた国内旅費(予算100,000円)が発生しなかった。また、同実施内容において重要となる、最適な導電性微粒子の探索とスクリーニングが順調に進んだため、材料費がさほど発生しなかった。したがって、次年度使用額として138,977円が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の研究実施により、成果が上がりつつある。一方、平成27年度実施予定である『蓄電デバイスへの実装と動作検証』は特に困難が予想されるため、この実施費用にあてたいと考えている。この理由は、同実施事項では、コンポジットの作製とEDLCの作製の両方を同時に進める必要があり、両者をトライ&エラーを繰り返しつつ進めていく必要があるため、その際に必要となる①材料費等の消耗品費として、次年度使用額を有効活用したい。また、本研究にて得られた成果を広く情報発信するため、②学会発表等の旅費として次年度使用額を活用したいと考えている。当面は、①を主に、②を副に考えている。
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