本年度は、前年度に検討した『コンポジットにおけるPTC特性発現温度の制御法の構築』にて得られた知見をベースとし、『①:コンポジットからなる自己回復性電流遮断素子の試作と性能解析』、および『②:蓄電デバイスへの実装と動作検証』の研究を実施した。PVDF/Niコンポジットからなる限流素子を作製し、素子に流れる電流がしきい値(以下、トリップ電流と呼ぶ)以上になると限流動作が発現することを確認した。Ni充填率によりPTC特性発現温度を制御すると、素子のトリップ電流値を連続的に変化させ得ることを見出した。すなわち、Ni充填率を増加させPTC特性が高温で発現するようにコンポジットを設計すると、これからなるコンポジットのトリップ電流値は上昇した。本研究で最も厳しい試験条件であった約12Aの限流試験において、限流動作中の素子の温度は約95℃であり、PVDFの融点(≒165℃)や分解温度(>375℃)に比較し十分低かった。本素子が形状安定性や耐熱性に優れる素子に成り得ることが示唆された。一方、蓄電デバイスへの実装と動作検証においては、蓄電デバイス電極の集電箔に対してPVDF/Niコンポジットの融着性が極めて悪い問題が生じた。コンポジットを用いたPTC機能を備えた蓄電デバイス電極の創製においては、集電箔の粗面化等の前処理が必要になることが分かった。 本研究全体を通して、PVDF/NiコンポジットにおけるPTC特性発現温度を制御する技術を構築するとともに、コンポジットからなる限流素子において素子特性を連続的に変え得ることを示した。電気容量や用途の異なる蓄電デバイス(リチウムイオン電池等)の保護素子としてコンポジットが適用できる可能性を示唆することが出来た。今後は、蓄電デバイス電極への本材料の実装技術開発を進め、自身で短絡防止機能を有する新構造電極の創製を目指したい。
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