研究課題/領域番号 |
26870677
|
研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
波多野 紀行 愛知学院大学, 薬学部, 講師 (50454319)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 細胞内亜鉛 / 亜鉛トランスポータ / TRPチャネル |
研究実績の概要 |
味覚障害とは味覚低下や自発性異常味覚などの症状を呈する感覚障害である。味覚障害は健全な食生活の維持を困難にし、二次的に様々な疾病を誘発するため、大きな健康問題となっている。味覚障害の主な原因は亜鉛欠乏だと考えられているが、味覚細胞において細胞内へ亜鉛を流入する分子は未同定であり、分子レベルにおける味覚障害発症機序は未だ解明されていない。そこで本研究では、味覚細胞における亜鉛流入を直接観察し、亜鉛流入分子を同定することを第一の研究目標として設定した。味覚細胞の亜鉛流入分子を同定することにより、薬剤誘発性味覚障害の分子機構や、原因不明である特発性味覚障害の発症機序の解明を目指す。本研究の成果は、味感知や細胞増殖といった味覚細胞の機能と細胞内亜鉛濃度の関連を解明する端緒にも成り得ると考えられる。 平成26年度は、主に亜鉛トランスポーターであるZip8およびZip14強制発現HEK293細胞を用いた亜鉛流入抑制因子スクリーニング系の構築を行った。亜鉛感受性色素を用いた細胞内亜鉛濃度測定により、Zip8およびZip14強制発現細胞における亜鉛流入を測定した。その結果、細胞外への亜鉛添加による細胞内亜鉛濃度の増加および蓄積が観察できた。さらに、Zip8およびZip14強制発現細胞における亜鉛流入量を定量的に解析するために、比色法による細胞外亜鉛濃度測定を行った。その結果、Zip8およびZip14強制発現細胞では、非発現細胞に比べて有意に細胞外亜鉛濃度が低下していた。この2つの方法を組み合わせることにより、より正確に亜鉛取り込み能を測定することに成功した。本実験系を用いて、味覚障害を誘発することが報告されている臨床薬剤の亜鉛流入に及ぼす影響を明らかにすることにより、味覚障害と亜鉛流入抑制との直接的な連関を明らかにすることができると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請した研究計画において3つの研究目的を掲げた。それは、「(1)ラット味覚細胞における亜鉛流入分子の同定」、「(2)高効率亜鉛流入スクリーニング系を用いた薬剤誘発性味覚障害発症機序の解明」、「(3)病態時における亜鉛流入分子の発現制御機構の解明」である。 3つの研究目標のうち、「(1)ラット味覚細胞における亜鉛流入分子の同定」と「(3)病態時における亜鉛流入分子の発現制御機構の解明」は、ラット舌から味覚細胞を良い状態で単離することが出来ていないため、ほとんど進展していない。単離味覚細胞に細胞内Ca2+濃度測定法や細胞内Zn2+測定法を適用するにあたり、細胞膜上の受容体やイオンチャネルが機能的に発現していることが必要条件となってくる。そのため、良い状態で細胞を単離することが必要となるが、平成26年度中に適切な単離条件を確定することはできなかった。 「(2)高効率亜鉛流入スクリーニング系を用いた薬剤誘発性味覚障害発症機序の解明」については、計画通りに研究を進行することができた。味覚細胞における亜鉛流入分子の候補であるZip8およびZip14をHEK293細胞に強制発現させ、亜鉛感受性色素を用いた細胞内亜鉛濃度測定を行った。その結果、細胞外への亜鉛添加による細胞内亜鉛濃度の増加および蓄積が観察できた。さらに、Zip8およびZip14強制発現細胞における亜鉛流入量を定量的に解析するために、比色法による細胞外亜鉛濃度測定を行った。その結果、Zip8およびZip14強制発現細胞では、非発現細胞に比べて有意に細胞外亜鉛濃度が低下していた。この2つの方法を組み合わせることにより、より正確に亜鉛取り込み能を測定することに成功した。Zip8およびZip14以外の候補分子であるTRPA1、TRPM3、TRPM5でも同様の検討を行ったが、この3つの分子では亜鉛流入を観察することはできなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
申請した研究計画において3つの研究目的を掲げた。それは、「(1)ラット味覚細胞における亜鉛流入分子の同定」、「(2)高効率亜鉛流入スクリーニング系を用いた薬剤誘発性味覚障害発症機序の解明」、「(3)病態時における亜鉛流入分子の発現制御機構の解明」である。 3つの研究目標のうち、「(1)ラット味覚細胞における亜鉛流入分子の同定」と「(3)病態時における亜鉛流入分子の発現制御機構の解明」を伸展させるためには、良い状態のラット単離味覚細胞が必須となる。これまでに様々な条件で試したが、本実験に対応できるような適切な単離条件はまだ見つかっていない。この問題を克服するため、動物種を変更して実験を行う予定である。本研究課題ではラットを主として実験計画を立てているが、より単離を行いやすいモルモットを用いた実験を行う予定である。また、モルモットでも単離が難しい場合はマウスでも同様の実験を試行したいと考えている。良い状態の単離味覚細胞さえ取得できれば、(1)と(3)の研究目標を進行させることは可能であると考える。 「(2)高効率亜鉛流入スクリーニング系を用いた薬剤誘発性味覚障害発症機序の解明」については、スクリーニング系の構築はほぼ完了している。本研究で構築したスクリーニング系は、細胞内亜鉛濃度変化を亜鉛感受性色素により測定する系、細胞外亜鉛を比色法により測定する系、という二つの異なる測定系で成り立っている。このスクリーニング系を利用して、味覚障害を誘発することが報告されている臨床薬剤の亜鉛取り込み阻害作用を検証し、味覚障害を誘発する分子メカニズムを明らかにしたい。また、現在Zip8およびZip14にGFPを融合した分子を作成中であり、これらのGFP融合蛋白質を用いた細胞内局在解析も合わせて行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ラット舌から味覚細胞を単離し、その単離した味覚細胞を用いて様々な実験をする予定であったが、良い状態の味覚細胞の単離ができなかった。そのため、本年度、計画した実験の一部を施行することができなかった。未施行の実験とは、単離した味覚細胞を用いた亜鉛流入候補分子ノックダウン実験である。そのため、siRNA購入費用に使用する予定であった助成金の一部を次年度使用額とした。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度施行することができなかった「単離した味覚細胞を用いた亜鉛流入候補分子ノックダウン実験」を次年度行うため、繰り越した助成金をsiRNA購入費用に充てる予定である。
|