研究課題/領域番号 |
26870678
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
折本 愛 東北大学, 大学病院, 医員 (30710967)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 歯科生体材料 / 細胞毒性評価 / ARE活性 |
研究実績の概要 |
歯科材料による細胞毒性関連遺伝子発現解析に、ルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイを適用し、これまでに、解毒の中心的な遺伝子発現応答である「ARE(Anti-oxidant Responsive Element)活性」を発光測定で定量する細胞株を樹立した。その細胞株を用いて、メチルメタクリレート(MMA)とジヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のARE活性に対する作用の比較から、ARE活性を低濃度で上昇させるレジンモノマーは、相対的に毒性が高いことを示唆した。しかしながら、MMAとHEMA以外のレジンモノマーによるARE活性化に関しては不明なままであった。そこで、レジンモノマーの濃度依存的なARE活性化能は、細胞毒性の強さを反映するかを検証するため、MMAとHEMAの他に、歯科で頻用されるエチルメタクリレート (EMA)のARE活性化能を調べ、細胞毒性との関係を検討した。EMAは、高濃度(10-30 mM)でARE活性を顕著に上昇させ、細胞毒性の指標となる細胞内グルタチオン濃度と細胞生存率の低下は30 mMにおいても起こらなかった。EMAのARE 活性に対する作用は、MMAと類似しており、30 mMでもグルタチオン濃度が低下しなかったことから、EMAは、急性の細胞傷害性という観点からは、MMAと同様にある程度多量に使用できる材料であることが示唆された。このように、EMAについてARE活性化における濃度依存性と細胞毒性の相関性を明らかにし、その結果、ARE活性化の濃度依存性は、相対的にレジンモノマーの毒性の強さの指標となることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにMMAとHEMAの比較から、ARE活性を低濃度で上昇させるレジンモノマーは、相対的に毒性が高いことが示唆されていた。本年度はEMAのARE活性化能について調べ、細胞毒性との関係を明らかにしARE活性に対するレジンモノマーの濃度依存性が、毒性の強さの指標となることを支持する良好な研究結果が得られた。 一方でトリエチレングリオールジメタクリレート(TEGDMA)、4-メタクリロキシ エチル トリメリテート酸無水物(4-META)、ウレタンジメタクリレート (UDMA)といったアクリル系レジンモノマーに関しても同様の実験を試みたが、上記材料によるARE活性誘導はみられなかった。これら材料は、非水溶性材料であり培養液に添加したところ析出してしまい、物理的な細胞のダメージによりARE活性誘導がみられなかったと考えられる。これにより「ARE活性試験」では毒性を評価できない材料があることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は作出したHepG2-AD13細胞におけるレジンモノマーのARE活性化における濃度依存性と細胞毒性の相関性を中心に行ってきた。EMAの結果からも、MMAとHEMAの比較により得られたレジンモノマーの細胞毒性が強いものほど、低濃度でARE活性を上昇させることが支持された。従って、ARE活性のレジンモノマー濃度依存性を解析することで、歯科用レジンモノマーの毒性を評価できると考えられた。また、ARE活性化を制御するセンサータンパク質Keap1のスルフヒドリル(SH)基との反応性が分子機構の基盤と考えると、この可能性は極めて高い。これまでにHEMAが多くの異物と同様に、このKeap1-Nrf2経路でAREを活性化することを報告した(Orimoto A, et al., PLoS One, 2013)。今後、ARE活性制御タンパク質である、センサータンパク質Keap1と転写因子Nrf2強制発現によりARE活性化の解析を行い「ARE活性試験」の基盤となる分子機構を確定するため、各種レジンモノマーによるKeap1への結合力について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
L929マウス線維芽細胞株や正常歯肉線維芽細胞由来のGin-1細胞の購入が必要である。保管していた細胞が正常に機能しなかったため新たに購入しなくてはならなくなったが、細胞の納品に時間を要し今年度に間に合わなかったため次年度に購入することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、細胞毒性評価に標準的に用いられるL929マウス線維芽細胞株や正常歯肉線維芽細胞由来のGin-1細胞においても、レジンモノマー刺激によるARE活性化、細胞毒性の評価指標として細胞内グルタチオン濃度、WST-8を用いた細胞生存率の測定を行なう予定である。これにより、歯科材料の毒性および有効性を細胞系で解析・評価するための、より確実な技術的基盤が構築されると考えられる。
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