本研究の目的は、ヒトの病態に極めて近い非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルマウスにおいて肝臓癌の進展を、水素の投与法を工夫した新規予防法により抑制可能であるかを検証し、その分子機構を明らかにすることで、水素を取り入れた食餌療法の確立を目指すことである。水素水の飲水によりNASH由来肝臓癌の発症を抑えるという報告は過去にもあるが、水素が腫瘍形成の過程にどの様な修飾を加えて、病態進展に影響するかを分子レベルで詳細に検討した報告は未だ無いため、本研究では、肝臓の病理学的評価に加えてDNAマイクロアレイ解析も実施することで病態像を説明する遺伝子群とその変化を明らかにできないかと考えた。 昨年度までに実施したDNAマイクロアレイ解析およびGSEAにより、水素は多岐にわたるシグナル関連遺伝子群の発現を修飾すると共にヒストンH3K27下流で制御される遺伝子群の発現を亢進させることが明らかになった。今年度は、水素を投与されたラットまたはマウスの肝臓を用いて組織染色およびウエスタンブロット法を行い、実際にH3K27のメチル化状態が水素投与により変化することを観察した。水素がヒストンH3K27の脱メチル化酵素を誘導し、同時にmitochondrial unfolded protein response (mtUPR)関連分子を誘導することも確認した。水素はヒストンメチル化修飾というエピジェネティックな機構に影響を与えて遺伝子発現を修飾し、同時にmtUPRを誘導し個体に有益な生体作用を引き起こすと推察された。研究成果をBiochem Biophys Res Commun.誌に発表した(Sobue S et al. 2017)。
|