研究実績の概要 |
本研究課題では,張力刺激(メカニカルストレス)や熱などの物理的刺激に対する筋細胞応答に着目し,ストレッチまたは熱刺激がステロイド投与に伴う筋萎縮の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い,臨床応用に向けた科学的エビデンスを集積するとともに,ストレッチと熱刺激を組み合わせた治療介入が,タンパク質の合成能と分解能を相加的に改善することで,より効果的かつ効率的に筋萎縮の進行を抑制するのではないかといった仮説を,培養骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)とステロイド筋症モデル動物を用いて検証することが目的である。 ストレッチ効果を検証した実験では,筋管細胞にタンパク質合成を促進するストレッチを加えると,タンパク質合成に関わる情報伝達経路(Akt,S6K1,ERK1/2,p38MAPK)が活性化するが,これらの活性化はPLD阻害薬(FIPI)によって抑制されないことから,ストレッチによる筋管細胞のタンパク質合成促進はPLDを介さないことが示唆された。 熱刺激効果を検証した実験では,ステロイド投与により萎縮が誘導される筋管細胞にHsp72発現量の増加をもたらす熱刺激を加えると,ステロイド投与によって生じるタンパク質分解に関わる情報伝達経路(KLF15,FoxO1,FoxO3a,MuRF1)の活性化が抑制されるとともに,タンパク質合成に関わる情報伝達経路(REDD1,Akt,S6K1,GSK3β)の不活性化が抑制(正常化)されることを明らかにした。また,熱刺激によるタンパク質合成に関わる情報伝達経路の正常化は,PI3K阻害薬(wortmannin)によって抑制されることから,熱刺激による筋管細胞の萎縮進行抑制機序の少なくとも一部はPI3Kを介することが示唆された。
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