細胞極性制御因子Crb3について、Crb3ノックアウト(Crb3KO)大腸癌細胞株を作成し、解析を行った。初年度の結果から、in vitroの系においてCrb3KO細胞の移動性が著しく低下ことから、今年度はまずin vivoの系においてどのような差が見られるかを検証した。Crb3KO細胞、又は親株を免疫不全マウスの腹腔内に移植し経過を観察したところ、Crb3KO細胞移植マウスでは腹腔内腫瘍の形成が著しく抑制されていることが判明した。 次にCrb3が一回膜貫通型のタンパク質であることから、恐らく親株とCrb3KO株の形質膜コンポーネントに何らかの差があることを期待し、小スケールのスクリーニングを行った。 その結果、レクチン染色により細胞膜糖脂質の一つであるガングリオシドの局在が異なることを発見した。ガングリオシドはレセプター型チロシンキナーゼの活性化抑制を介して腫瘍の進展に抑制的に働くという報告がある。そこで抗ガングリオシド抗体を用い免疫蛍光染色を行ったところ、親株では細胞内の一部に染色が見られるが、Crb3KO細胞においては細胞膜上に強い染色が見られることが判明した。またCrb3KO細胞にCrb3遺伝子を再導入することでガングリオシドの膜局在が抑制された。このことから、この現象が非特異的遺伝子変異によるものではない事が強く示唆された。さらにガングリオシド特異的シアリダーゼを強制発現させたところ、細胞膜上のガングリオシドは消失し、細胞の移動性も回復することが判明した。以上の結果からCrb3の欠損により、細胞膜上のガングリオシドが増加し、腫瘍形成を抑制するというこれまでに知られていない腫瘍抑制メカニズムの一端を明らかにすることができた。
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