研究実績の概要 |
前立腺癌進行に対する創薬標的となり得るCa2+活性化K+チャネルサブタイプを同定し、機能的役割を検討することでその病態的意義を明らかにし、イオンチャネル作用薬の前立腺癌治療における有用性を実証するため、以下の実験を行った。 ①リアルタイムPCR解析により、各種Ca2+活性化K+チャネルサブタイプの発現量を解析した。これにより、正常前立腺細胞株や、アンドロゲン非依存性ヒト前立腺癌細胞株PC-3と比較し、アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPにおいて、KCa2.2 mRNAが高発現していることを明らかにした。また、KCa2.2 mRNAは、ヒト正常前立腺組織と比較してヒト前立腺癌患者由来組織において高発現していた。 ②RNA干渉法によりアンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)によるKCa2.2転写調節を検討した。LNCaPにおいて、KCa2.2ノックダウンではAR mRNAは影響を受けなかったが、ARノックダウンによりKCa2.2 mRNA発現が有意に低下した。また、去勢環境条件での培養により、LNCaPにおけるAR mRNA発現が上昇し、それに伴いKCa2.2 mRNA発現が有意に増加した。 ③ストア作動性Ca2+流入(store-operated Ca2+ entry, SOC)に対するKCa2.2の寄与をCa2+蛍光指示薬Fura 2-AMを用いたイメージング解析にて検討したところ、LNCaPにおいて、KCa2.2阻害剤UCL1684投与によりSOCが有意に抑制された。 以上の結果より、LNCaPにおいて、KCa2.2が細胞内Ca2+シグナル調節に関与しており、ARの転写調節を受けた。去勢抵抗性の獲得や維持にKCa2.2機能亢進が寄与する可能性があり、Ca2+活性化K+チャネルKCa2.2の新規前立腺癌治療標的としての有用性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPやVCaP、アンドロゲン非依存性ヒト前立腺癌細胞株PC-3やDU145、22Rv1、ホルモン療法抵抗性前立腺癌細胞株(PCai1, LNCaP AI-5, LNCaP AI-8)など、多種の前立腺癌細胞株の安定した培養に時間を要した。 さらに、創薬標的となり得るCa2+活性化K+チャネルサブタイプの同定のために、これら細胞株を使用したリアルタイムPCR解析においても、多種あるイオンチャネルの中からターゲットイオンチャネルを同定するのに苦慮した。 また、当初、ラット前立腺癌モデル由来細胞株PCai1に発現しているターゲットイオンチャネルの去勢環境下での発現変化を明らかにした上で、そのイオンチャネルをノックダウンしたPCai1をマウスに移植することを計画していた。しかしながら、去勢環境でPCai1を継代しても、ターゲットイオンチャネルの変化は認められなかったため、PCai1を用いた動物実験は中止とした。この代替実験として同様に去勢抵抗性を獲得しているヒト由来の前立腺癌細胞LNCaP AI8 CSを用い、発現しているターゲットイオンチャネルの阻害薬投与やノックダウンを行うことで、ターゲットイオンチャネルの機能的変化の解明を行う。 加えて、本研究では当初、名古屋市立大学病院より前立腺癌患者の針生検(または摘出組織)を譲受することを予定していた。しかしながら、本研究の立ち上げ初年度であったため基礎研究結果が十分ではなく、協力研究者である名古屋市立大学大学院 腎・泌尿器科学分野 佐々木昌一 准教授との詳細な協議の結果、IRB(治験審査委員会)の承認が得られないとの判断がなされた。そのため、最終的には予定施設からのヒト前立腺癌患者由来組織サンプルを譲受することが出来なかった。この結果を受けて、ヒト前立腺癌患者由来組織サンプルは、OriGen社からmRNAを購入することで代用することとした。
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今後の研究の推進方策 |
現在、それぞれの細胞株の環境条件が定まり、安定した継代培養が可能になっている。さらに、ターゲットイオンチャネルの同定についても終了した段階である。 本研究計画調書の提出時には、研究立ち上げの初年度であったため、可能性のある実験を広く設定していた。今後、遅れを取り戻すため、実験計画を下記のように見直す。 ①各種前立腺細胞株の安定維持のために要する時間を減らすため、細胞株を限定する。実験開始時、細胞株の種類は、9種類(PrEC, LNCaP, VCaP, PC-3, DU145, 22Rv1, PCai1, LNCaP AI-5, LNCaP AI-8)さらに、チャコール処理した血清添加培地で訓化した細胞株(PCai1 CS, LNCaP AI-5 CS, LNCaP AI-8 CS)とさらに、これらに薬物処理等した各段階の細胞を保持していた。これまでに得られた結果を考慮して、これらを3種類(LNCaP, LNCaP AI-8, LNCaP AI-8 CS)に限定する。 ②本実験開始時に予定していたPCai1のマウス移植実験は上述の理由(「11. 現在までの達成度」参照)にて行わないが、その代替実験として、本実験に関わる動物種を全てヒトもしくはヒト由来に統一させ、同様に去勢抵抗性を獲得しているヒト由来の前立腺癌細胞LNCaP AI8 CSを用い、ターゲットイオンチャネルの機能的変化の解明を続行する。
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