研究課題/領域番号 |
26870705
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
見原 礼子 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (70580786)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヨーロッパ / 多文化社会 / 性的虐待防止 / 子どもの権利条約 / 性的搾取及び性的虐待子ども保護条約 / オランダ |
研究実績の概要 |
本年度は主に、教育プログラムを実施する場で移民の文化的・宗教的多様性への配慮はどの程度なされ、またどのような課題が生じてきたのかを解明するための研究を遂行してきた。先行研究及び欧州評議会の性的搾取及び性的虐待からの子ども保護条約担当官との協議を踏まえ、これらの点を明らかにするためには学校で行われているセクシャリティ教育の教材やカリキュラム内容に着目することが有効であることを改めて確認し、本年度は欧州のなかでも特に先進的なセクシャリティ教育が実施されているオランダの取り組みに着目してフィールド調査及び分析を行った。 フィールド調査では、オランダで最大のセクシャリティ教育プログラム開発機関で多くの学校への教材採択実績のあるRutgersへ訪問し、同社が開発するセクシャリティ教育の教材開発における文化的・宗教的多様性への配慮について聞き取りを行うと共に、入手した教材の分析を行った。また比較対象として、オランダ政府から全額の国庫補助を得て運営されている50校のイスラーム学校で活用されているイスラーム学校独自のセクシャリティ教育教材を入手し、教材開発の経緯の聞き取りの整理と教材の分析を行い、その成果について学会発表を行った。 加えて、昨年度分析を行った欧州評議会の性的搾取及び性的虐待からの子ども保護条約の履行状況をまとめた成果を整理し、専門家からの意見を仰ぐため国内の学会で発表した。 セーブ・ザ・チルドレンのスウェーデン支部が刊行した子どもの性的虐待加害者の治療に関する著書(Anders Nyman, Olof Risberg, and Borje Svensson, Young Offenders: Sexual Abuse and Treatment, Save the Children Sweden, 2001)の翻訳作業も引き続き行った。来年度中に刊行の見通しが立っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、教材やカリキュラムへの着目よりも学校現場やノンフォーマルな学びの場における実践に焦点を当てる予定にしていた。だが、教材やカリキュラムに着目して丹念に分析をすることは、教育現場でどのような教育が展開されているかを理解するためのきわめて重要な前提となることを国際学会発表の場で得られた示唆や欧州評議会の性的搾取及び性的虐待からの子ども保護条約担当官との協議から確認できたため、時間をかけてこの分析作業を行うこととなった。当初予定していた教育現場でのフィールド調査は来年度に回すことになったが、今年度の教材・カリキュラム分析の成果を踏まえて学びの場での参与観察を行うことで、より深みのあるフィールド調査を遂行することが可能になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の重要な研究成果の一つとして、オランダの学校で用いられている標準的なセクシャリティ教育教材と、イスラームの信仰にもとづき作成されたセクシャリティ教育との比較研究が、本課題の問いを解明するための鍵の一つとなることが明らかになった点が挙げられる。来年度は教材比較をより本格的に行うとともに、それぞれの教材を用いる教育現場でこの教材がどのように用いられているのかを明らかにすることを研究活動の一つに位置付けていきたい。また、オランダの状況を踏まえつつ、他の欧州諸国の状況や欧州評議会の取り組みにも目配りをしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2月末から3月上旬にかけて予定していたベルギーでのフィールド調査を家庭の事情により取りやめたため、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ベルギーでのフィールド調査は、来年度に引き続き行うオランダでのフィールド調査と組み合わせて実施する。2度にわたって行う予定であったフィールド調査を1度にまとめて行うことで調査旅費を節約できる分の予算は、来年度、当初は予定していなかった国際学会での発表を行うための旅費や参加費に充てる。これにより、研究成果をより広く公表し、さらに多様な分野の専門家や実務家からの意見を仰ぐことが可能になる。
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