グローバル化する日本の文化産業の実相を明らかにするのが本研究の目的である。分析の焦点は、日本のマンガ文化と、それを受容する国のコミック文化との相互作用に置いた。分析対象は、日本のマンガのファン文化が近年発達し、また現地のコミック文化も100 年ほどの蓄積がありながら、これらを対象にした学術研究がいまだほとんど行われていないフィンランドとした。 2000 年代後半以降、日本のマンガ・アニメなど文化産業は、海外展開を意識するようになった。「クール・ジャパン」政策においても、戦略の中核に位置付けられているのがマンガ・アニメである。しかし、マンガなどの「クール・ジャパン」に関する研究は、北欧地域を対象にしたものが極めて少ない。そのため本研究ではフィンランドの事例を具体的に分析することで、日本の文化産業の「グローバル化」について批判的に再考することを試みた。 研究方法は、現地での観察調査(マンガ関連イベントでの非参与観察、日本マンガのフィンランド語版および英語版翻訳出版物の流通状況の調査、フィンランドで発行されるマンガの出版状況の調査)、および、マンガファンおよびマンガ関連イベントのオーガナイザーを対象にした聞き取り調査であった。 調査の結果、日本のマンガが単にメディア商品として輸入され消費されるだけでなく、現地の文化状況のなかで浸透し、現地化されていることを明らかにした。分析結果は(1)翻訳出版物の出版および日本マンガスタイルの普及、(2)翻訳出版物の受容、(3)ファン文化の展開という3視点から整理し、考察を行った。 本研究によって、文化産業の「グローバル化」は一枚岩的なものでなく、各ローカル文化の文脈に応じて多様に展開されるものであることの一つの証拠が示された。
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