本研究の目的は,難病患者を対象とした個人の生活の質(individual Quality of Life; iQOL)とその支援について多角的に検討することであった。一昨年度からの継続課題である個人の生活の質(iQOL)にかかわる方法論や認識論に関する議論を実施した。本年度はとりわけ,より個人の実存的なライフ(生命・生活・人生)に迫るQOL評価法の有用性とそれにかかわる方法論について検討した。難病患者の多くが在宅医療へ移行するにつれ,個人の実存に迫る(iQOL)とその理解は,地域社会で共生する上でも重要かつ個別具体的な支援方略を提供する一つの指標になると考えられる。 これまでの研究では,難病患者の療養環境や支援に地域差が認められており,地域における病気の社会的認知度や生活環境にも差異があるがゆえに,個人に焦点を当てたQOL向上に向けた取り組みがより重要になると考えられる。とりわけ難病患者の中には身体機能や生活環境により限られた生活空間の中で社会生活を営む者もおり,社会参加が抑制されたり,自ら地域社会との距離を置いたりする場合がある。その際,患者と地域社会との接点を担うのは医療機関である。本研究では難病患者や慢性疾患患者を含む広義での社会的孤立者に対する医療機関が抱える問題点についても検討した。その結果,慢性的な人材不足だけでなく,地域における在宅医療や訪問看護に携わる人材の育成なども課題のひとつとして挙げられた。 これらの研究成果は,関連する国内外の学会で発表や関連する書籍等で広く報告された。
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