研究課題/領域番号 |
26870715
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
前崎 信也 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 専門研究員 (20569826)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 九谷焼 / 大正 / 京焼 / 陶磁器 / 産業史 / 窯業史 / 近代化 / 旅行記 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は国内外での大正期における九谷焼資料調査、および九谷焼資料収集である。2014年5月に英国の日本陶磁器収集家であるデイヴィッド・ハイアット・キング氏のコレクション調査を行い、同コレクション所蔵の松雲堂製の明治―大正期の九谷焼花瓶の撮影を行った。 2015年1月28日から2月1日にかけて石川県で資料館や博物館が所蔵する大正期の九谷焼関連資料を調査した。調査先は、石川県立九谷焼美術館、小松市立博物館、能見市九谷焼資料館、石川県立図書館、石川県立美術館である。九谷焼美術館では大正期の九谷焼の下絵類の存在を確認した。小松市立博物館では近代の九谷焼を代表する生産者である松雲堂旧蔵の文献類数百点を確認した。本資料には明治期から大正期にかけての九谷焼関連の貴重な資料が多数含まれている。能見市九谷焼資料館では学芸員の佐久間忍氏、能見市観光交流課の北村周二氏と面会し市内に残る大正期の九谷焼関連資料についての情報収集を行った。 大正期における加賀市内の九谷焼にとって極めて重要な役割を果たしていたのが北出窯である。地域最大の陶磁器業者として、周辺の絵付け業者が使う九谷焼記事の生産を一手に行っていた。これまでの調査で北出窯の調査は実現していなかったが、北出窯での修行経験のある協力者の仲介により、2015年度に北出窯への調査ができることが決定した。このことにより、本研究が出版を目指している『石川県陶業地方見学記』に記載されている窯元中、現存する個人の窯元についてはすべての調査を終えることとなる。 資料のデジタル化については、上記の北出窯で色絵の技術を学んだとされる富本憲吉関連資料(京都市立芸術大学所蔵)の画像データベース「近代陶磁器資料データベース」を構築し試験運用中である。小松市立博物館所蔵の松雲堂資料についてはデジタル化を目標として再度の調査を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の計画では、石川県内の九谷焼に関する学校・工場・窯元への聞き取り調査を予定していた。当初は各1週間で計3回の石川県調査を予定していたが、2015年1月から2月にかけての1回の調査にとどまった。しかし、同調査では成果の概要で述べたとおり、石川県内の九谷焼関連施設を中心に訪問して多くの資料を確認・調査し、予想以上の成果をあげることができた。石川県内の調査が1回にとどまったことの代替調査として、現地調査ではなく5月のイギリスの個人コレクション所蔵の九谷焼調査、東京の三の丸尚蔵館への大正期に属する九谷焼の調査を行った。 石川県立図書館では大正期の『北國新聞』中の九谷焼関連記事の収集を、東京国立博物館においても、大正期の九谷焼についての資料収集を行った。更に、近代の九谷焼関連の資料収集(書籍・絵葉書・古写真)を進めた。当初計画していた聞き取り調査、および資料調査の達成度としては80パーセント程度と評価できる。 予定していた近代の九谷焼関連資料は多く現存を確認することができた。九谷焼に関わる文書、明治期から昭和初期の写真、大正期の九谷焼作品、陶磁器図案、その他九谷焼関連の資料を当初の予定通り調査した。 収集・購入した資料についてはすべてデジタル化を行うことができた。同時に、九谷焼との関係の深い京都の陶芸家 富本憲吉関連資料については画像データベースの構築を達成した(近現代陶磁器資料データベース)。その他に石川県内で確認した資料のデジタル化については所蔵機関と交渉中である。資料デジタル化の達成度としては90パーセント程度である。 以上により、自己評価としては当初の計画をおおむね達成することができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は本研究の最終年度として以下のように研究を進める予定である。 ① 2014年度からの調査の継続:これまでの研究同様、大正期の九谷焼関連の学校・工場・窯元の調査を行う。2015年5月には大正期における加賀市の九谷焼生産の中心のひとつであった北出窯の調査を予定している。このほかにも、2014年度に資料調査を行った、小松市立博物館、能見市九谷焼資料館、石川県九谷焼美術館所蔵資料の再調査を行い、詳細な資料研究を行う。 ② 研究成果の発信:2014年度までの研究成果をまとめ、関連学会での報告を視野にいれた論文執筆を行う。特に今回の調査で新たに存在を確認した小松市立博物館の資料については、その概要について発信し、今後の九谷焼研究に資する。本研究の発端となった大正7年の松林靏之助による九谷焼調査報告書『石川県陶業地方見学記』の翻刻の出版を目指す。 ③ 資料デジタル化の継続:これまでにデジタル化を終えた本研究関連資料については、2014年に構築を終えた「近現代陶磁器資料データベース」に収録し、公開できる資料については、できる限り早い一般公開を目指す。特に小松市立博物館が所蔵する松雲堂関連資料は、本研究に極めて重要なものであるため、デジタル化・画像データベース化の実現を目指して交渉を進める。
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備考 |
(1)近代陶磁器データベースについては画像をパスワードで保護 (2)宮永東山窯陶磁器データベースは研究メンバーのみログイン可能
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