本研究は、18世紀後期ブリテンの「帝国」と「コモンウェルス」に関わる諸言説の競合的概念とその変容を効率的に解明するために、バークをひとつの軸に置き、彼への応答を追跡するものである。 最終年度に当たる本年度は、昨年度に研究の焦点を絞った次の二つのテーマを継続的かつ発展的に分析した。一つは、アーミテイジの論考に大きく示唆を受けた、自然法と諸国民の法の分岐に着眼する国際思想史研究の視角である。バークの自然法、諸国民の法論を中核に置きつつ、同時代の英国において国際法について論じたジェイムズ・マッキントッシュならびにロバート・ウォードとの共通点と差異について検討した。国際法によって対外主権が確立、正当化する過程において、主権国家は、帝国あるいはコモンウェルスにはない特質を得た。ただし、一方で、近代ヨーロッパの一部の諸国が「条約による帝国」拡大を為しえたことも無視できない。この点は、部分的には、次の第二のテーマであるバークのインド論の再検討で扱った。本研究にとってもっとも重要な点は、彼のブリテン帝国構想において、インドがどのような形で位置づけられているかという点である。本年度は、彼の初期の論考である「第9報告書」を素材に、彼が明確に貿易と自治という観点をもって帝国を構想した点を明らかにした。また、バークがインドについて論じるにあたって、国際法あるいは主権といった概念を、いつ、どのように用いたのかについても検討した。バークは東インド会社が条約締結の主体とはなり得ないことを繰り返し主張した。もっとも国際法を明示的に(それも自然法とは異なる形で)用いたのは、フランス革命以後に限定される。最後に、バーク研究は、近年、大きく進展している。その代表といえるリチャード・バークの『帝国と革命』をはじめとする研究動向において、本研究の採用する視点と共有可能な分析を整理した。
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