研究課題/領域番号 |
26870717
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
松田 時宜 龍谷大学, 理工学部, 助教 (30389209)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化物半導体 / プラズマ / 格子欠陥 / 電子スピン共鳴(ESR) / 薄膜トランジスタ |
研究実績の概要 |
InGaZnO4 (IGZO)を始めとする多元系酸化物半導体材料中にプラズマによって導入される格子欠陥と、そのデバイスに対する影響を評価するため、まずIGZOとその成分金属元素の酸化物であるGa2O3, In2O3, ZnOにプラズマによって導入される格子欠陥について電子スピン共鳴法(ESR)にて評価を行った。すなわち、酸化物半導体材料にプラズマを用いて意図的に格子欠陥を導入し、ESR 信号を検出することに成功した。これらのESR信号について詳細な評価を行った。 IGZO 中に生成される格子欠陥に起因するESR 信号の測定条件依存性について評価を行った。また、その欠陥導入条件依存性を評価した。その結果、IGZO中のESR信号は2種類あり、格子欠陥を導入する際のガス種がArとO2と違うことによってESR共鳴中心の生成率が異なるということが判明した。それぞれのESR信号について、ESR測定条件依存性を評価した。また、 IGZO 中に生成された格子欠陥の熱処理による回復過程に関して実験を行った。 その結果、熱処理により速やかに減衰する信号と、減衰しない信号があるということがわかった。 ZnO中に検出されたESR信号は、熱処理による減衰に特徴があり、二次反応で減衰するということが分かった。 以上により、酸化物半導体中のESR共鳴中心が、IGZO中のバンド構造の中でどのような位置に形成されているかということを考察し、格子欠陥のモデルと、バンド構造の中での役割について提案を行った。以上のことを論文として発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デバイスの性能に影響を与える格子欠陥について、InGaZnO4(IGZO)のような多元系酸化物半導体については未解明な部分が多い。その詳細を調べる事により、多元系酸化物半導体デバイスの特性に対する格子欠陥による影響を明らかにすることができる。これにより、新規材料デバイスの性能向上に寄与すると考える。以上の目的に従ってIGZOを始めとする多元系酸化物半導体材料中にプラズマによって導入される格子欠陥を電子スピン共鳴法(ESR)にて評価を行った。 すなわち、IGZOとその構成元素である金属酸化物のGa2O3, In2O3, ZnO中にプラズマによって導入される格子欠陥をESRにより評価を行った。IGZO中に検出されるESR信号は、これらの構成元素酸化物において検出されたものとは異なるものであった。したがって、IGZO中のESR共鳴中心はその構造を反映したものになっているというと考えられる。 以上により、酸化物半導体中のESR共鳴中心が、IGZO中のバンド構造の中でどのような位置に形成されているかということを考察し、格子欠陥のモデルと、バンド構造の中での役割について提案を行った。以上のことを論文として発表を行った。また、酸化物半導体薄膜の欠陥評価へと研究を進めるための準備を行っている。 以上のように、IGZOをはじめとする酸化物半導体中の格子欠陥に関して各ESR信号を検出し、その熱安定性を評価することもできたため、交付申請書の計画に沿っておおむね順調に研究を進めることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られたIGZOを始めとする酸化物半導体中のESR信号について、詳細な解析を進めるとともに、各酸化物半導体薄膜のESR法による評価へと研究を進めていきたい。これにより、結晶性粉末から、アモルファス酸化物半導体薄膜へと材料の状態が変わることにより、本研究の目的である酸化物半導体デバイスの特性に対する格子欠陥の影響を調べることの足掛かりとする。すなわち、これまでに得られた各ESR信号とそれらについて提案している格子欠陥のモデルに関して薄膜となった酸化物半導体において詳細な評価・検証を行う。信号の位置や、プラズマの条件依存性、また測定温度依存性などを詳細に評価する。 また、酸化物半導体薄膜のESR法による評価を行うためには、何らかの基板に成膜を行う必要がある。その際はESR共鳴信号を出さない基板を選定し成膜を行う。 このようにして得られた酸化物半導体薄膜自体の評価(光学特性的、表面評価、元素分析など)も行う必要がある。 成膜条件によってESR信号の出方が違う可能性があるので、その部分も含めた評価を行う。そのため、プラズマ生成用のガス導入系について、マスフローコントローラーの設置を行う事を中心とした実験装置の改造を行う予定である。 これらの実験によって得られた酸化物半導体中のESR信号と、そのデバイス特性との関係を明らかにするため、薄膜トランジスタ(TFT)素子の作製・電気的特性の評価にも着手する。これにより、酸化物半導体中の格子欠陥がTFT素子の特性にどのように影響するのかが直接確認できるようになればと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではこれまでに使用してきたプラズマ処理装置のガス供給系の改造を行い、すなわちプラズマ処理をする際の材料ガスを変更し、それによりInGaZnO4 (IGZO)を始めとする酸化物半導体の各材料の格子欠陥を評価する予定でいた。 しかし、予定していた装置の改造を行わなくともIGZOだけでなくGa2O3, In2O3, ZnOも含めたそれぞれの酸化物半導体材料の格子欠陥を現行の材料ガス(Ar、 O2)によって導入し、ESR法を用いて評価することができた。これにより、各格子欠陥のESR中心に関するモデルを構築することもできたため、論文の投稿も滞りなく行った。今後はこの実験系・評価手法を、薄膜へと展開していく必要があり、それにかかると想定される金額に比べて本予算は極めて限られている。そのため、当初予定していた装置の改造を延期することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、これまでに行ってきた、結晶性酸化物半導体材料の格子欠陥をESR法によって評価を行う手法を、薄膜材料へと展開していきたいと考えている。 そのため、ガス供給系の改造を行う。具体的には、酸素のガス流量の微量な変化が、成膜された酸化物半導体薄膜の特性に大きく影響していることがわかってきたため、精密なマスフローコントローラーを導入する。また、酸化物半導体薄膜の光学特性を含めた評価を進めるため、紫外光源・モノクロメーターなどの光学系装置を導入したいと考えている。これにより、IGZOだけでなく、様々な酸化物半導体薄膜を評価することができ、現在提案している格子欠陥のモデルと、デバイス特性への影響などが明らかとなり、研究目的を達成できると考えている。
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