本研究は、発生頻度の高い腱断裂に対する鍼治療の臨床応用を目指し、腱修復過程に及ぼす鍼通電刺激の影響について調査することを目的として、ラットのアキレス腱断裂処置後モデルを用いて調査した。モデル作製後、無作為に鍼通電刺激群、鍼群、無処置群の3群に分けた。そして、鍼通電刺激群は、軽度麻酔拘束下にアキレス腱断裂部の内外側に先端部が腱断裂部に接触するようにそれぞれ鍼を刺入し、内側部を陰極、外側部を陽極として間欠的直流鍼通電刺激をモデル作成日の翌日から各評価日まで連日行った。鍼群は、鍼通電刺激群と同一部位への鍼の刺入のみ行った。無処置群は、麻酔拘束処置のみとした。研究期間は2014年度~2015年度の2年間として、2014年度は、組織学的影響について検討するため、細胞の局在を観察するとともに、腱の修復に関与するサイトカインの発現量を観察した。その結果、腱断裂後早期(モデル作製後3日、7日、10日)において鍼通電刺激が腱修復部の細胞増殖と成長因子の発現増加をもたらすことを確認した。これらのことから、腱断裂後早期において鍼通電刺激を行うことにより、修復に関わる成長因子の発現に促進的に作用し、細胞の活性化を促すことが示唆された。2015年度は、力学的影響について調査するため、腱断裂後早期(モデル作製後10日)および長期経過後(モデル作製後90日)における修復腱の最大破断強度を測定した。その結果、何れの評価日においても鍼通電刺激群で有意に高い力学的強度を示したことから、鍼通電刺激は、断裂後早期における力学的強度の再獲得のみならず、長期経過後における修復腱の力学的強度にも好影響を及ぼし、腱の再断裂の予防に寄与する可能性が考えられた。2年間の成果から、鍼通電刺激は腱修復に対して短期的にも長期的にも有益な可能性が考えられたが、鍼通電刺激の至適条件やその時期については今後の詳細な検討が必要である。
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