本年度は,タクシー事業に関する国内外の経済理論研究および実証研究の文献調査を継続した。また,日本のタクシー事業に関する継続的なデータ収集も実施した。以上を踏まえて,本研究の目的である「規制緩和の効果の分析」と「各地域のタクシー市場の構造の解明とその分類」を達成すべく,本年度は主に以下の三研究を実施した。 第一に,2002年から始まった需給調整規制の撤廃と2009年以降に実施された参入規制の強化がタクシーの車両数の増減に影響したのかどうかについて検証した。分析の結果,需給調整規制の撤廃は車両数の増加に寄与し、特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法による再規制は車両数の減少に寄与することがわかった。この分析結果については,日本交通学会第75回研究報告会にて「タクシー事業の規制政策と参入退出」と題して共同報告を行った。 第二に,流し営業を基本とする都市部のタクシー市場を対象としてタクシーの需要関数を推計することにより,タクシー需要に影響を与える要因について引き続き検討を行った。この検討結果については,14th World Conference on Transport Research(上海で開催)で「A demand analysis of regulated taxicab market: Evidence from Japan」と題して報告した。 第三に,『2016年版交通政策白書』および『自動車運送事業経営指標』を用いて,主に労働生産性の視点から今後のタクシー事業での人材問題について検討した。この分析結果については,雑誌『運輸と経済』 第76巻第10号に収録されている。 これらの定量的な研究成果は,先行研究の知見に厚みを増すものと考えられ,学術的および交通政策立案の際の基礎的資料としても有用なものと考えられる。
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