研究実績の概要 |
音楽演奏はコミュニケーションのプロセスとみなすことができる。音楽鑑賞は演奏者と観客の、合奏は演奏者どうしのコミュニケーションである。本研究では、そのような音楽的コミュニケーションについて、定量的に明らかにする。 本年度は、音楽鑑賞におけるコミュニケーションに関する研究を発表した。研究の目的は、音楽演奏者の日常場面でのコミュニケーション能力と、演奏音との関係について検討することである。実験では、熟達したピアニストに、同一楽曲を様々な感情で演奏し分けてもらった。本実験設定は、先行研究を踏まえたものである(例えば、Gabrielsson & Juslin, 1996)。研究で使用した曲は、実験のために作曲者に依頼したものである。演奏はMIDIで記録された。実験では、演奏者は聴取者が意図した感情を判断できるよう演奏した。演奏終了後、演奏者はコミュニケーションスキルテストに評定した。 実験の結果、以下のことが示唆された。(1)演奏者のコミュニケーションスキルテストの評定は、感情の表現し分けの際の、演奏時間長と音の大きさと関係していた。(2)この傾向は、表現する感情によって異なった。例えば、悲しみなどではこの傾向が見られた。(3)コミュニケーションスキルテストの得点の高さと、悲しみ/優しさの区別に関係が見られた。音楽での感情判断において、この2つの感情は区別しくいことが知られている。これらの結果から、コミュニケーションスキルテストの得点が高い演奏者は、各感情をより明確に演奏し分けていることが推測された。 以上のように本成果により、演奏者の日常場面でのコミュニケーションスキルが演奏に与える影響について、定量的に検討することができた。
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