本研究の目的は、妨害刺激嫌悪効果やその関連現象(感性満腹感、選択誘導性選好)のような人間の選好を変容させる方法を用いて、人間の食行動を変化させる方法を開発することである。平成28年度までの研究で、食べ物を写した動画を反復的に提示するだけで、当該の食べ物の摂取欲が相対的に低下すること(視覚刺激に対する感性満腹感)、及びこの現象の生起メカニズムを明らかにした。平成29年度は、上記の研究成果をまとめた英語論文を執筆し、当該論文は国内の学術雑誌に採択された。また、上記の視覚刺激に対する感性満腹感に関する共同研究を行ない、食べ物の動画を反復的に提示することは、当該食べ物の摂食量をむしろ増加させることを明らかにした。 加えて、妨害刺激嫌悪効果が食行動を変容させるメカニズムを検討した。従来の研究では、妨害刺激と課題無関連な食べ物画像が同時に提示された際に反応を抑制することで、当該食べ物の摂食量が低下することが報告されていた。しかし、反応を抑制することそのものが重要なのかどうかは十分に明らかにされていなかった。そこで本研究では、先行研究のように手で課題を行うのではなく、足で反応を行うことで上記の点を検討した。その結果、フットスイッチを用いて足で課題を行った場合、反応の抑制を行っても食べ物の摂食量は変化しなかった。このため、反応抑制することそのものが摂食量の変化に重要なのではなく、「手で反応を抑制すること」が重要であることが示唆された。
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