本研究は,社会的状況における行為の主体感の変容が行動モニタリングを調節する生物学的メカニズムを明らかにすることを目的としている。本年度は,結果の確信度が社会的状況における行為の主体感に及ぼす影響を検討した。実験では,3名の小集団が多数決に基づきカードを選択する集団意思決定課題において,結果の予測ができる刺激とできない刺激を事前に学習させることで個人が高い確信度で結果を予測するときと低い確信度で結果を予測するときを設定して,集団意思決定に付随する正解・不正解結果の提示時に生起する脳波を解析した。その結果,自身の選択が少数派であるとき,高い確信度で集団意思決定が不正解であると予測するときは,低い確信度のときに比べて正解結果に対するフィードバック関連陰性電位(FRN)振幅及びθ波のパワー値の増加が顕著であった。一方,結果の確信度の操作は,不正解結果においては観察されなかった。FRN振幅及びθのパワー値は,行為結果の重要性や予測からの逸脱を反映することから,この結果は,多数決における少数派において集団意思決定への主体感が減衰していても,個人の行為に基づく行動モニタリングは保たれていることを示している。 本年度予定していた研究に加えて,本研究の結果が行為と結果の遅延時間の変動により生じている可能性を検討した。実験では,ギャンブル課題におけるカード選択と正解・不正解結果の間の遅延時間を操作した。その結果,FRN振幅及びθ波パワー値は,遅延時間が長くなると減衰するものの,時間予測を高める操作を行うことにより回復できることが分かった。このことから,本研究で用いている集団意思決定課題におけるFRN振幅及びθパワー値の変容は,遅延時間の変動ではなく行為の主体感の変容により生じていると考えられる。
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