研究課題/領域番号 |
26870755
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
冷水 登紀代 甲南大学, 法学研究科, 教授 (50388881)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ / 社会扶助 / 基礎保障 / 扶養 / 償還請求 |
研究実績の概要 |
2014年度における本研究の実施計画(1)ドイツ法において、社会扶助の受給者の扶養義務者に対する償還請求が可能となる要因を、社会扶助制度と扶養法の両面から探るについては、拙稿「扶養の権利義務の明確化と公的扶助制度との調整-ドイツ法の視点から」において、ドイツ法上扶養義務者への償還が可能となる要因として、私的扶養における権利義務が規定されている中で、扶養権利者の権利は、社会扶助の客観的基準と扶養法の相当性、その他の社会給付による収入、権利者の財産、その他の共同体からの収入を考慮して要扶養状態を判断し、償還請求のなかで、扶養義務者の給付能力について、義務者の収入、居住用住居とその他財産、義務者の将来の生活、扶養義務者と配偶者等の生活における留保財産などを考慮して認定し、判例法理がされに精緻化されている。また、償還請求が否定される場面もこの請求の中で、民法上のルール、社会扶助法上のルールに従い厳格に判断されていることが明らかとなった。 また、実施計画(3)ドイツにおいて社会法第12編に編入された高齢時と稼働能力喪失における基礎保障制度が整備されるにいたった経緯、現在の活用状況、さらにこの制度をめぐる肯定説・否定説について検討することについて、現在も介護保険でまかなえない需要について、社会扶助の問題となっていることが明らかとなった。 基礎保障の是非については、2015年にドイツ訪問をしてえた資料等をもとに現在検討中である。 実施計画(2)の日本での償還請求を機能させるための扶養制度および生活保護制度の検討については、日本法では、生活保護法改正により導入された扶養義務者への通知制度が、生活保護法77条の償還請求に向けた一石となることを指摘しつつ、償還請求を円滑に行うには、民法上のルールを明確化する検討が必要であることを明らかにした(拙稿「扶養法と生活保護法の現状と課題)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績の通り、研究計画に従い、概ね研究をすすめ、概ね当初の予定通りの結果をえることができた。すなわち、高齢時及び稼働能力減少時の基礎保障制度が整備されて以降も社会給付の実施主体からの償還請求が行われていドイツの現状の中で、扶養の権利義務を厳格に解釈することで、償還請求を認めるとともに、扶養義務者の現在・将来の生活、その家族の生活を保障していることから、ドイツではなお扶養法が社会法に優先する制度との位置づけが明らかとなり、ドイツ法を、日本法との比較研究の対象とする意義が見いだされた。 しかし、高齢時及び稼働能力減少時の基礎保障制度が整備され、一部では、老親扶養の問題点が指摘されているが、この問題点の指摘の内容を2014年度で十分に明らかにすることができなかったことが、上記の評価となっている。ただし、この課題については、研究計画の段階で、2015年度にまたがることも当初から予定している。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、2015年に積み残したドイツのおける基礎保障制度が整備されて以降のこの制度の評価、されにこの制度を踏まえた社会法の展開を検討することからはじめる。また、この検討をもとに、2016年の実施計画(1)にある、基礎保障制度を実施するにいたった政策指針、それを支える理念、その実施を支える財政基盤の確保の検討に研究の対象を広げていく。 続いて、これらの議論を踏まえ、実施計画(2)のとおり、日本において、社会保障制度と扶養制度の現状の枠組みを転換する可能性が見いだせるかを検討する予定である。 また、この研究を推進していくために、必要に応じて、この分野に通じている研究者へのインタビュー、ドイツへの再調査も試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、まず、ドイツへの訪問調査の期間が、公務上の理由で、2015年3月17日から3月30日しか確保できなかったため、当初の予定より期間が若干ではあるが短くなったこと、さらに年度末となったため、旅費の予算がどの程度になるかを事前に見積もることが難しかったことがあげられる。 この訪問調査では、この研究の一番のコアとなる現代のドイツにおける扶養制度の意義と社会法における償還制度に関する前提研究が必要であったため、これに関連する資料に限定しすぎて、収集したことも一因といえる。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、上記の実施結果にもあるように、基礎保障制度に関する是非検討するため、できるかぎり多くの関連分野の機関、研究者等を訪問できるよう、できる限り早い時期、できれば、夏期休暇を利用して、2014年度に実施できなかったドイツでも訪問調査を検討するとともに、この分野の検討に必要な資料を法学の側面、経済学的な側面から広く収集に努めたい。 また、基礎保障に関するドイツでの議論をふまえて、2015年度後期に、研究計画で予定している憲法分野や経済分野の専門家へのインタビューも実施していく。
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