研究課題/領域番号 |
26870755
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
冷水 登紀代 甲南大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50388881)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ / 社会扶助 / 扶養 / 償還請求 |
研究実績の概要 |
2015年度における本研究の課題は、昨年度の研究から生じた課題と本年の課題である社会保障制度・家族政策とそれをささえる理念の展開をもとに扶養のルールを検討しつつ、貧困政策をささえる財政的基盤について検討することであった。 そこで、第1に、扶養制度が現行法に至った経緯をたどることで、国家による社会政策が与える扶養法制への影響さらに、高齢社会・核家族化が進行するなかでの日本型福祉の限界を踏まえた扶養制度のルール化の可能性を2016年3月11日家族法フォーラム(京都大学山本敬三=神戸大学窪田充見主催)の研究会にて、「扶養法における協議」をテーマに口頭報告を行った。ここでは、昨年行ったドイツ法との比較をもとに日本法のルールの展開可能性を示した。この報告は、本研究の中間報告と位置づけられる。 第2に、社会政策との関係において、日本法がこれまで高齢者の介護から生じているリスクを解消してきたのか、介護保険制度が整備されて以降はどのような現状となっているかという問題について、家族がおかれている法的地位の観点から検討を加え、従来の家族主義的ケアから生じる問題点(本人の意思の欠缺・対立)を指摘しつつ、本人・家族の意向の実現と社会による負担の問題(財政的限界)との関係をいかに調整していくかという問題を明らかにした(拙稿「親族による財産管理と法的地位」)。 第3に、従来の本研究では、社会扶助・基礎保障・介護保険などの社会法上の各制度を中心に検討をすすめてきたが、ドイツはEUの加盟国であることからEUが行っている貧困政策もドイツ国内に影響を及ぼす可能性があるため、このような観点からアプローチを試みたところ、山口大学の豊嘉哲教授より、「EUの社会保障政策へのヨーロッパ経済の影響について」というテーマで食料支援の観点から有益な示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記研究実績の通り、2014年度の研究成果とそこから生じた課題は、2015年度の研究を進めるうえでも重なる中心的な課題であったため、計画段階から予想されていたことであった。したがって、2015年度は、上記課題にとりくみつつ、当初から予定していた扶養制度と社会保障制度の調整を行うための理念的レベルでの課題から取り組み、3月の段階で口頭報告を行った。この点か当初通り進んだ点といえる。 また、2015年の研究成果をもとに、家族関係への社会政策の転換の影響も予定通りすすみこの研究成果については公刊につなげることができた。 さらに、ドイツにおける貧困政策とEUにおける社会政策の一つとしての食料支援と経済状況の影響についても、この分野の専門家から知見をえることで、財政規律が社会政策にす少なからず影響を与えることが分かったが、この点がドイツ固有の社会政策や家族政策に影響があるのかどうか等についてはなお検証が必要となり、昨今のドイツの国内事情(難民流入)が、現在のドイツ国内の社会政策に影響があるのかという点も新たな課題として今年度生じたことから、このような問題点も踏まえた検討が本研究においては必要な課題であることが分かり、2015年度に行うことを予定していた経済事情と財政事情が与える社会政策への影響とそれが間接的に扶養法に与える影響について十分な分析が、現時点では出来ていない状況といえる。そして、この分析ができていない一因として当初予定していたドイツ国内での調査が今年度できなかったことがあげられる。したがって、上記のような評価になっている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年は、9月1日より本学より在外研究の機会が得られることがすでに決まっており、この期間に2015年でできなかったドイツ国内の財政事情と社会の変化が社会・家族政策に与える影響に関する調査と分析を行いたい。 また、2016年はこの研究期間の最終年度であることから、ドイツでの財政事情が社会政策に与える影響を検証しつつ、同国の社会政策の展開が扶養法に与える影響を多角的に検討する。これと同時に、あるいは先行して2016年3月の研究報告で参加いただいた先生方から拝聴した本研究の課題に取り組みつつ、これまでの成果をまとめ、日本法における扶養制度の展開可能性を、ドイツ法と比較検討することで、研究成果として公刊することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度は、研究計画上、ドイツの財政状況が与える社会政策・家族政策への影響につき、現地の関係機関で調査する予定であったが、当該年度の残額では十分な滞在期間が確保できず、調査としては不十分となる可能性があったため、2016年度に繰り越すことで目的が達成されると考えたこと、また2015年の秋に2016年9月から2017年8月まで現地での在外研究ができる見込みがたったため、その期間を利用して重点的な研究が出来る目処がったため、未使用額が生じたといえる。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年秋より、ドイツにて在外研究をするため、そこで生じるドイツ内の交通費や書籍の購入にあてる予定である。
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