研究課題/領域番号 |
26870755
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
冷水 登紀代 甲南大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50388881)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 扶養 / 社会扶助 / 生活保護 |
研究実績の概要 |
2016年4月1日から8月31日までは、主に、日本のこの分野についての判例の状況を中心に検討した。特に、①25歳の無職無収入の子の扶養義務の程度に関する裁判例(大阪家裁平成26年7月18日)、②成年者の親に対する扶養義務の算定方法に関する裁判例(札幌高裁平成26年7月2日)を中心に検討し、扶養の権利義務に関する規定が不明瞭な日本法のもとでは、扶養の権利者が必要な保護を受けられないだけでなく、扶養義務者の義務の限界が明確ではなく、扶養義務者も不安定な状況におかれていることを明らかにしている。 2016年9月1日よりドイツ・ボン大学(Institut fuer Deutsches, Europraeisches und Internationales Familienrecht)の客員研究員として在外研究の機会をえて、本研究の比較対象であるドイツの状況を検討している。特に9月から3月にかけては、ドイツにおける①血族扶養(特に高齢の老親に対する扶養)と②未成年者に対する親の扶養義務、③離婚後扶養を含めた夫婦間の扶養義務の正当化根拠を中心に検討しつつ、貧困防止をめぐるドイツの近年の政策状況も検討し、これらの検討から生じている本研究を遂行するなかで生じている疑問を、現地の研究者である教授(Coester-Waltjenゲッティンゲン大学名誉教授、Hilbig-Luganiデュッセルドルフ大学教授)にミュンヘンにて2017年3月1日インタビューを行い、ドイツにおいて血族扶養制度が改革されずに維持されている制度的背景を確認した。このほか、ボン家庭裁判所(3月16日)・ボン少年局(3月17日)に訪問調査をし、2016年に改正された扶養前貸し制度の状況等を確認している。高齢社会を維持するための社会法の状況や家族の貧困を解消するためのドイツにおける家族政策の状況についても検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年9月1日より2017年8月末まで、ドイツ・ボン大学にて在外研究の機会を得ている。そのため、2016年前期中は、在外研究の準備等と学内の業務負担が重なり、当初の予定に反して研究を進めることができなかった。 また、ドイツでの在外研究の機会は、本研究を遂行するうえで当初予定した以上に、本研究の課題をより深くまた多角的に検討するための機会となっている。すなわち、本研究の中心的課題となっている血族扶養と社会法との関係に関する分析は、扶養義務者世代の義務負担の集中と公平な分担、扶養義務者自身の生活上の権利の保護の観点からみたときに、夫婦間扶養や未成熟子への扶養も含めた検討が必要となることに気づくきっかけとなり、このような新たな課題も含めた検討も行っている。 上記の通り研究環境の変化にくわえ、研究の多角的な分析の必要性という実質的から、本研究の研究期間を延長した方がより本研究をより本質に迫る成果が得られるものと判断し、2016年度末で終了することをせず2017年度末まで延長することにした。
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今後の研究の推進方策 |
2017年3月までの成果を踏まえ、現在、ドイツ法における扶養制度の正当化根拠を探究するとともに、社会法と扶養法の調整システムおよび調整のための指針につき、第1次資料にあたり検討中である。このような作業を行いつつ、ドイツ滞在中の8月末をめどにドイツ法のまとめ作業に入る予定である。 それをもとに2017年後半は日本法との比較検討を行い、研究者が所属する研究会等で本研究の口頭発表を行うとともに、しかるべき刊行物に本研究の研究成果を公刊する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年に予定していた研究計画が遅れた理由とも関係するが、2016年9月よりドイツにて在外研究を行っているため、2016年前半は国内法に関する研究が中心となったこと、また当初予定していたドイツでの研究調査に関する旅費等を支出する必要がなくなったことが2017年度に使用額が生じた主な原因といえる。
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次年度使用額の使用計画 |
現在ドイツ滞在中で、基本的な文献・データベース等は、大学図書館や研究所のものを利用することができるが、この研究を継続するために必要な図書やCD-Romの購入費用が必要になること、また可能であれば、2018年2月か3月に(在外研究の予定が2017年8月末のため)、今回の在外研究で得た成果をもとにさらに追加で調査が必要になった場合に再度ドイツを訪問する必要が生じる可能性があるため、その際の旅費として利用することを予定している。とりわけ、2017年秋の選挙の結果により政権交代が生じた場合には、政権の主張や現実の社会情勢に照らした政策が採られる可能性が高く、現地での確認作業が必要となる可能性が生じるからである。
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