研究実績の概要 |
脈波伝播速度(血管内を流れる血流速度)の上昇によって血管内皮機能が障害され、動脈硬化をきたして脳や心臓、腎臓を障害すると報告されている。本研究課題の目的は、脳血管障害患者の脈波伝播速度が血管内皮機能にどう関与しているかを調査し、その機序を明らかにすることであった。 本研究課題の方法は、(1)既存の研究コホートを対象に脈波伝播速度と脳血管障害との関連を調査する、(2)新規の研究コホートを対象に血管内皮機能に関するバイオマーカーを測定し、その意義を明らかにする、とした。 最終年度の研究成果としては、(1)既存データを縦断的に解析し、ラクナ梗塞患者の脈波伝播速度は脳梗塞の再発を予測できることを、学会と論文で発表した(佐治直樹、他.第42回日本脳卒中学会学術集会、Saji N, et al. The 3rd European Stroke Organisation Conference, Hypertens Res 2017)。また、(2)新規研究コホートを対象に、高感度CRP、IL-6、APP770(脳血管内皮細胞特異的アミロイドβ前駆体タンパク:認知症のバイオマーカー候補)などを入院時と2週間後に2回測定して、対象患者の臨床データと比較した。その結果、興味ある知見が得られた。知見①:入院後に神経徴候が悪化した群は、入院時よりも2週間後のバイオマーカーが高値であった。また、脈波伝播速度も悪化群で高かった。知見②:シロスタゾール治療群は、2週間後のバイオマーカーがアスピリン治療群と比較して低かった。また、神経徴候悪化群もシロスタゾール治療群で低い傾向であった。 これらのプレリミナリーな知見から心血管病や脳血管性認知症の予測、予防にもつながる臨床研究や治験を計画でき、脳卒中の新しい治療法開発につなげることも可能かもしれない。
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