近年、瀬戸内海では貝食性のナルトビエイが増え、二枚貝類への食害が報告されている。本研究では、記録計を装着して本種の摂餌行動を詳細に分析し、貝類を中心とした瀬戸内海の浅海域の生態系へ与える影響を評価し、さらにその食害を軽減する手法を提案することを目的としている。 平成27年度までの調査で、沿岸域へ来遊したナルトビエイを捕獲し、記録計を装着し、数日後に回収する手法を開発した。また、平成28年度の調査でビデオロガーを装着して、行動を記録することで自然状態でのナルトビエイ摂餌行動や他個体との接触行動を記録することができた。平成29年度の調査では、さらにビデオロガーを装着して、ナルトビエイが摂餌する海底環境や他魚種との種間関係を示す映像データを記録することもできた。とくにクロダイの遭遇頻度が高く、エイが摂餌した際に掘り出された底生生物を捕食していることが推察された。また、フグ類やコバンザメがエイの表皮を噛む様子も確認された。瀬戸内海にはコバンザメが付着するような大型魚は少ないため、コバンザメの記録はほとんどない。しかし、ナルトビエイに付着することで瀬戸内海にも分布を広げている可能性がある。以上のように、ナルトビエイが瀬戸内海の他魚種と新たな種間関係を構築している可能性が示唆され、摂餌を介さずとも、瀬戸内海の生態系を変えることが懸念される。 平成29年度の調査では、水中で三次元の遊泳経路を計測することができる3Dロガーを使用することで、摂餌中のナルトビエイの行動を3次元で詳細に再現することに成功した。その結果、本種は餌の密度の差に応じて摂餌時間を調節しており、探索と摂餌を繰り返すことで、効率よく広範囲を探索して、海底の二枚貝類を摂餌することが推察された。以上のように、ナルトビエイが摂餌する環境や発生時刻および摂餌行動に関する情報から食害対策を検討するための資料を提供することを検討している。
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