電位依存性カリウムイオンチャネルサブユニットをコードするKCNQ2遺伝子変異は新生児発症てんかん(良性家族性新生児けいれんおよび新生児てんかん性脳症7型)の原因として知られており,KCNQ2が構成するM-channelの機能低下による神経細胞の過剰興奮が疾患に関与していると考えられてきた。これらの疾患は生後一週間以内に発症する特徴があり、遺伝子変異型てんかん症として最も早くに発病する。一方で、神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)は成熟した脳では抑制性神経伝達物質として働くが、新生児期の未熟な神経細胞では興奮性として働く。この興奮性は脳の発達にとって重要だが、過剰な興奮は転換の原因になりうる。また、発達期の脳内では神経ネットワークの構築が行われており、カリウムイオンチャネルは神経同士のシナプス形成に重要な役割を果たしている可能性がある。KCNQ2遺伝子変異により新生児期のGABA性神経回路がどのように影響を受けるかを明らかにするために、良性家族性新生児けいれん患者にみつかったものと同様の遺伝子変異を持つノックインマウスを作成した。さらにこれらのマウスのGABA作動性神経細胞を生理学的条件下で同定するために、GABA作動性神経細胞特異的にヴィーナス蛍光タンパク質を発現するVGAR-Venusマウスと交配させた。これによりKcnq2遺伝子変異を持ち、GABA作動性神経細胞を生理条件下で同定可能なモデルマウスの作成に成功した。このマウスを用いてKCNQ2遺伝子変異による新生児期のGABA性神経回路への影響を調べた。その結果 GABA作動性神経細胞におけるMチャネルの機能が遺伝子変異により低下し, GABA作動性神経細胞の興奮性が上がることでGABA放出が亢進することを発見した。過剰なGABA放出は新生児発症てんかんに寄与すると考えられる。
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