研究課題/領域番号 |
26870782
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
柳生 数馬 福岡大学, 工学部, 助教 (90609471)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / SiC / インターカレーション / パラジウム(Pd) / 走査トンネル顕微鏡(STM) |
研究実績の概要 |
研究実施計画の通りPd原子を蒸着させるための蒸着源を制作し,走査トンネル顕微鏡(STM)が取り付けられている真空チャンバーに蒸着源も装着した.その結果,この同じ真空チャンバー内でゼロ層グラフェンの作製からPd原子の蒸着までを行うことができるようになった. 次に予定通りゼロ層グラフェンを作製して,その表面にPd原子を蒸着したあとで試料を加熱してPd原子のインターカレーションが起きるかどうか調べた.表面の状態をSTMで観察すると,Pdは蒸着後にはゼロ層のテラス上にクラスターを形成してランダムに分布することが分かった.さらに,ゼロ層と部分的に1層が混在する表面にPd原子を蒸着した場合には,Pdはゼロ層に多く吸着することが分かった.次に試料を加熱すると700℃でPd原子がゼロ層グラフェンとSiC基板間にインターカレートすることを確認した。 Pd原子がインターカレートした後で試料を加熱すると,1000℃を超えた時にPd原子の脱離が始まり,元のゼロ層グラフェンに戻ることが確認できた.インタカレート後にゼロ層グラフェンに戻ることはCu原子のインターカレーションの場合と同様である. Pd原子のインターカレーションが起きることは確認したが,Pdの蒸着量が少なかった.これでは光電子分光法で電子状態を調べるときに強い信号が出ないと考えられるため,現在はPd蒸着量を飽和する程度まで増やして実験を続けている.また,Cu原子がインターカレートした表面で見られたようにインターカレートした原子が作る構造が原因のモアレパターンが現れないか調べている. これらの成果は学会等で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Pd原子がインターカレートした表面はCu原子がインターカレートした表面に比べて凹凸が激しく,従来のようにSTMで表面を観察すると,おそらくSTMの探針が表面に衝突することで解像度が落ちてしまう.このためPdがインタカレートした後の表面でグラフェン格子を確認することに時間がかかっている.これを解消するために,探針を走査する際の条件を変化させて最適値を探している.また,探針の素材をタングステンからプラチナイリジウムに変更すれば探針の状態が安定する可能性があるため,プラチナイリジウム製の探針を作製しようとしている.
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今後の研究の推進方策 |
プラチナイリジウム製の針の作製については,タングステン探針を作る時と同様の溶液を使って電界エッチングによりプラチナイリジウム探針を作ろうとしたが,エッチング速度が非常に遅かったため,溶液を変更して電解エッチングを行う予定である. Pd原子の蒸着量を増やし飽和する量でインターカレーションを行う.インターカレーションした表面ではグラフェン格子と同時にモアレパターンを詳しく観察して,グラフェンの下にあるPd層の構造を考察する. Pdを増やした表面でインターカレーションができたら光電子分光法でPd原子の電子状態とK点周りの電子状態を調べて,インターカレーションした後のグラフェンでは,下地との相互作用がなくなり理想的なグラフェンになっているかどうか調べる.また,光電子分光法によって,グラフェンのドープの状態を調べる. 次にCu原子とPd原子を同じ資料に蒸着してインターカレーションを起こしpn接合を作製する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に購入が予定されていたノートパソコンは,至急必要になったため,交付決定通知前に購入したため,本予算で購入する必要がなくなった. 放射光施設での実験の前段階としてのSTMを用いた研究に予定よりも多くの時間がかかったため,放射光施設を利用していない.従って放射光施設使用料も発生していない. 平成26年の日本物理学会秋季大会では研究計画通り発表を行ったが,本予算とは別の予算から旅費の支給を受けたため,本予算は使用していない.他に国際会議1件と国内学会1件での発表を予定していたが,研究成果の進展が予定よりも遅れているため発表はしていない.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は研究の進展に合わせて放射光施設を利用する費用や,学会に参加するための旅費として残りの予算を使う予定である.また実験装置に改良が必要な箇所があれば予算を使って改良する予定である.
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