研究課題/領域番号 |
26870803
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研究機関 | 島根県立大学短期大学部 |
研究代表者 |
矢島 毅昌 島根県立大学短期大学部, 保育学科, 講師 (60642519)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保育者養成教育 / 保育・幼児教育 / 児童文化 / 地域の自然 / 地域資源 / 地元学 / 教育社会学 |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究実施計画に基づき、①地域の自然の情報と児童文化財の資料収集と内容分析、②地域の自然の情報と児童文化財を活用した授業の設計・実施・検証および授業受講者の意識に関する分析を行った。 まず①では、島根県内の文教地区の住宅街の一角に存在する身近な自然を実地調査し、その実態を「地元学」の提唱する「あるもの探し」の視点で分析した。この分析を通じて、学校教育・メディア・環境教育で流布される非地域志向な自然の知識を再構成することが保育者養成教育において重要であることを明らかにした。また、児童文化財の資料収集と内容分析については、保育者養成プログラムに必要と考えられる児童文化財の要素として「コミュニケーション」「知識を伝達する媒体」「言葉と物との関係の多様な表現」「大人にも印象的なメッセージ性」を設定し、これらの要素を持つ絵本を新規に購入して内容分析を進めている。 次に②では、担当授業にて「子ども・教育をとりまく社会問題について」「児童文化財に描かれた人間関係について」「地域社会と人間関係について」「絵入り教科書としての絵本について」「子どもの言葉の育ちと自然環境について」「私にとって大切な児童文化財」をテーマにした課題レポートを実施し、受講者の有する地域の自然や児童文化財との接触体験の傾向を明らかにした。なお、ここで明らかとなった傾向は、①の絵本を購入する際の選書基準の一つとなっている。 ①の研究成果については、地域の自然の情報に関する学会発表が行われた後に、論文が刊行されている。また②の研究成果については、それを踏まえた平成27年度の授業の実施に向け、現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、以下の手順を経て、最終的に「地域の自然の情報と児童文化財の活用を通じた保育者養成プログラムの原理と方法」の開発を達成する計画となっている。 ①地域の自然の情報や、保育現場で広く親しまれている絵本をはじめとする児童文化財を、先行事例や研究を踏まえて選択的に収集し、それらを保育者を志す学生の養成における意義や可能性という観点から分析する。 ②分析から得られた知見を踏まえ、既存の授業をもとに、地域の自然の情報や児童文化財を活かした授業を設計・実施し、受講者の反応をもとに授業の内容や効果を検証して、次年度の授業を設計・実施する。 ①については、実際に収集した自然の情報と児童文化財を対象に、「地元学」「Place-based Education」など人と地域志向の知識との新たな関係性の創造や再構成に寄与する知見から調査や研究を行うことができた。成果は学会発表と論文が1件ずつである。また②については、担当授業での課題レポートから得られた受講者の反応をもとに、地域の自然の情報や児童文化財を活かした授業の再設計を進めており、平成27年度の夏以降の実施に向けて準備をしている段階である。 以上から、平成26年度に実施すべき研究計画をおおむね順調に進展させられたと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で述べたように、本研究は、1年目の段階での計画はおおむね順調に進展している。 今後は、まず引き続き①の蓄積を進めることになるが、自治体の発信する地域の自然の情報や保幼小接続カリキュラムとの比較など、より実践的に踏み込んだ分析を行っていく予定である。また、すでに②で得られた受講者の反応をエスノメソドロジー等の手法で分析することで明らかになった成果を論文の形式でまとめる予定である。 そして、あらかじめ平成27年度の実施を計画していた「③地域の自然の情報と児童文化財にかかわる展示・ワークショップ等の調査」についても、文献やインターネットを資料とする事例調査だけでなく、時間的・地理的な制約が許す範囲で実施し、報告をまとめる予定である。 以上の①②③の成果を論文と授業計画の形式で理論的・実践的な側面からまとめ、平成27年度中に報告書を刊行することを計画している。その際、本研究の基本的な前提である「保育者を志す学生をとりまく現状において、自然の情報が身近な地域での体験から切り離された情報に偏りがちであり、また児童文化財の鑑賞・理解のあり方が狭義の保育技術との関連に偏りがちであるという問題意識」に立脚することで、教育社会学のアプローチによる地域志向型の研究という位置づけを明確にしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、購入を予定していたカメラとプリンターの値崩れが年度当初の想定を超える大きさであったことであるが、論文の別刷りを作成せず最終的に報告書を作成するよう計画を変更したことも一因である。研究成果を論文として発表するにあたり、所属学会の学会誌の刊行スケジュールや、所属機関の紀要への掲載数などを考慮した結果、成果発表の充実のためには報告書の刊行が望ましいと判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の「理由」において言及しているように、次年度使用額の大半は報告書の刊行費用に充てられる予定である。
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