頭部伝達関数を用いて音源を模擬する聴覚ディスプレイシステムにおいて、従来よりも正確に音源の持つ情報を提示することを目的とし、システムの根本的な刷新を目指して研究を行った。聴覚ディスプレイシステムの精度は、これまで音像定位実験によって主に評価され、「正しい方向定位ができること」を指標としてきた。これに対し、本研究では音源があることによる音の「存在感」に着目し、その存在感を評価指標として用いるための検討を行った。 平成26年度の研究により存在感を構成する心理的な要素を抽出し、その知見も踏まえ、平成27年度は実験系の構築を行なった。実験場所の改修工事のために実験実施までは至らなかったが、実験計画の改良を行った。具体的には、頭部伝達関数について、もともとダミーヘッドで測定したものを全ての被験者に利用する予定だったところを、実験時に被験者ごとに測定して実験に用いることとし、そのための測定準備や算出プログラムを作成した。 平成28年度には15名の被験者に対して聴取実験を行った。聴取者の周囲に12個のスピーカを並べ、存在感のある音源を提示可能な実音源と、耳を塞がないヘッドフォンを用いることで聴覚ディスプレイシステムからの提示音とをランダムに切り替えながら提示し、4種類の音源を用いて、提示された音の知覚方向と、その音の存在感、迫真性について評価させた。その結果、定位精度は確かにスピーカ提示の方が優れていたが、存在感においては両者で有意な差が表れなかった。 なお、現在は、定位精度がほぼ同じ状況を作り出し、その際の存在感を評価する追実験を行う予定であり、そこまでの内容をまとめて論文執筆するつもりである。
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