本研究の目的は、アメリカの社会政策構想を支えた思想を掘り下げる観点から、19世紀末以降のアメリカ社会の急激な変化の下で、J.R.コモンズがアメリカ社会の在り方についてどのようなイメージを抱いていたのかという問題群を切り開くことにある。 平成26年度においては、主にウィスコンシンの実践的取り組みをまとめた論文集『労働と行政』(1913年)の解読によって、コモンズが、1900年代にラフォレットやマクガヴァンなどの州知事のもとで州レベルにおける労働災害補償保険などの草案作りに直接参与し、1920年代以降に社会改良のアイディアを連邦レベルへと拡大することに本格的に取り組むなど、ウィスコンシン理念が持つ政治的次元と大学の州へのサービスの2つの側面を架橋する経済学者であったことを明らかにした。 平成27年度には、ハウの『ウィスコンシン:デモクラシーの実験』(1912年)により、ウィスコンシンがドイツ的な社会政策を受け入れる土壌には、「州立大学と州政府との協働」というドイツ・コネクションの存在があり、これを基盤として政治改革や社会・行政改革の成果である包括的な社会政策が実行されていた点を明らかした。また、ウィスコンシン理念を体現したコモンズの思想的背景を確認するために、主に初期の著作である『社会改革と教会』(1894年)を素材として取り上げ、彼がソーシャル・ゴスペラーとしての社会のキリスト教化による全ての人間の救済という宗教的信念を背景に、社会学という科学的知識を用いた立法府の適切な立法行為を通した社会改革の実現を考えていた点を明確にした。 これらの研究成果の一部は、平成28年3月の「進化経済学会第20回大会」にて報告し、2年間の研究成果のまとめを内外の査読付学会誌に投稿するため、目下論文の執筆を進めている。
|