本研究では,筋力トレーニング中にヒト大脳皮質運動野(M1)へ対して施す単発経頭蓋磁気刺激(TMS)が筋パフォーマンスを高めるかどうか,また,単発および連発TMSによる中枢神経系興奮性の検証も同時に行った. 14名の健康な被験者は,トレーニング中に単発TMSを施されるTr.+単発TMS群(7名)とトレーニングのみのTr. only群(7名)の2群に無作為に分類された.実施した1日のトレーニングは,右上腕二頭筋における5秒間の最大随意収縮(MVC)を1分間の休息を挟んで5回繰り返すという内容で,これを3日間連続で実施した.Tr.+単発TMS群においては,その5秒間MVC中3秒目に単発TMS(刺激強度:安静時閾値の120%)が右上腕二頭筋を支配しているM1に対して施された.運動前後に実施した中枢神経系興奮性の測定は,単発TMS(10発)および連発TMS(刺激内間隔時間3msおよび10ms,それぞれ10発ずつ)により行われた.1日の実験の流れは,まず安静時および収縮時運動閾値を測定し,トレーニング前の中枢神経系興奮性およびMVCの測定を行った.その後,適切な休息を挟みトレーニングを行った.トレーニング終了直後および5分後,10分後に中枢神経系興奮性の測定を行い,最後にMVC測定を実施した. その結果,Tr.+単発TMS群の筋パフォーマンスにおいて,トレーニング中およびトレーニング後の発揮筋力が1日目と比較して3日目で有意に高くなった.一方,Tr. only群においてはいずれも有意な変化は認められなかった.また,Tr.+単発TMS群の中枢神経系興奮性において,M1内抑制が運動前と比較して運動終了直後および5分後で有意な低下が認められた. したがって,3日間の上腕二頭筋トレーニング中の単発TMSは効果的に筋パフォーマンスを高めた.これは,より早い神経系の適応がTMSにより刺激されたことによるものと考えられる.
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