研究課題/領域番号 |
26870824
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
石川 麻乃 国立遺伝学研究所, 新分野創造センター, 特任研究員 (20722101)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 甲状腺刺激ホルモン / 日長応答性 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、①北米と日本の淡水型においてTSHb2の日長応答性の喪失をもたらした具体的なゲノム配列と分子機構の変化の解明と②イトヨの生活史におけるTSHb2の機能解析を行い、それぞれにおいて著しい進捗があった。 ①では、北米集団を用いたTSHb2のeQTL解析を行い、短日条件下でのTSHb2遺伝子発現レベルのQTLは、TSHb2遺伝子座自体に存在することが分かった。これは、北米集団でのTSHb2の日長応答性の違いはcis制御領域の違いによると示唆してきた研究代表者のこれまでの研究成果と一致する。更に、北米と日本の海型と淡水型を含めた複数集団の全ゲノムリシークエンス配列から、TSHb2のcis制御領域に北米の淡水型のみに見られる挿入欠失変異が発見されたことから、この領域が北米の淡水型で日長応答の喪失をもたらした候補領域と考えられた。この領域を用いてレポーターアッセイを行ったところ、海型と淡水型のTSHb2遺伝子の上流配列は異なる発現誘導能を持っていることが示された。また、TSHb2の日長応答性の発現誘導に関わる候補転写因子をスクリーニングするために、短日条件から長日条件に移行した直後の海型のイトヨの下垂体を用いてRNAseqを行い、TSHb2よりも早期に発現変動を示し、TSHb2のcis制御領域に結合する可能性のあるいくつかの具体的な候補転写因子も得られてきた。 ②では、海型と淡水型のF2交雑個体を用いたゲノムアソシエーションマッピングにより、TSHb2の遺伝型と相関のある繁殖形質や遺伝子発現を解析したところ、メスの生殖腺重量指数GSIと有意な相関が見られた。またTALEN法を用いて作成したTSHb2ノックアウトイトヨのF0個体では、オスの精巣発達が抑制されていた。これらのことから、TSHb2は生殖線発達の日長応答性を担っているのではないかと示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年は、交付申請書に記載した研究計画・方法のうち、(1)日長変化に伴い下垂体で早期に発現変動する転写因子の解析、(2)短日条件でのTSHb2発現レベルに対する全ゲノムeQTL解析、(5)海型、淡水型のF2個体のゲノムアソシエーションマッピング、が終了した。この結果、当初計画にあった(3)TSHb2上流の淡水型特異的配列におけるタンパク質-DNA相互作用の検出を遂行前に、淡水型イトヨにおいて日長応答の喪失を担う具体的な候補変異配列及び候補変異配列に結合する可能性のあるいくつかの具体的な候補転写因子も得られた。更に、(4)候補転写因子とTSHb2上流の候補変異領域を用いたレポーターアッセイ、(6)TSHb2ノックアウトイトヨの作成と人工淡水池を用いた機能解析についても、順調に進捗しているため、計画は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、平成26年度に得られた実験結果を元に(4)候補転写因子とTSHb2上流の候補変異領域を用いたレポーターアッセイを行い、日長応答性の集団間変異をもたらす具体的な分子遺伝機構の解明を進める。また、(2)短日条件でのTSHb2発現レベルに対する全ゲノムeQTL解析、(5)海型、淡水型のF2個体のゲノムアソシエーションマッピングについては、日本で北米とは独立に生じている淡水型でも同様の解析を行い、祖先的な海型から派生した複数の淡水型で、TSHß2の日長応答性が、平行的に、しかし異なる遺伝機構で失われている遺伝的基盤について解析を進める。またTALEN法を用いて作成したTSHb2ノックアウトイトヨのF2個体を作成し、これらにおいて日長変化時における卵巣、精巣発達や、脳内の性腺刺激ホルモンの日長応答性、代謝系の変動について解析する。
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