研究実績の概要 |
本研究は、MRI法によりマーモセット、チンパンジー、ヒトの乳児期から思春期までの脳構造の発達変化を分析し、前頭前野をはじめとする脳構造の発達における霊長類的特徴、ホミノイド的特徴(チンパンジー、ヒトの共通点)、母親以外の家族も子育てを行う霊長類共通の特徴(マーモセット、ヒトの共通点)を理解することにより、ヒト固有の特徴の解明を目指した。今回、全ての霊長類が保持しており、大脳半球を結ぶ最大の白質路である脳梁に注目した。脳梁は感覚、運動、認知などの多様な神経機能の関連している。 特筆すべき結果は次とのとおりである。霊長類共通の特徴として、乳児期に脳梁が急速に増加し、子ども期では緩慢な増加が続くことが明らかとなった。母親以外の家族も子育てを行う霊長類共通の特徴として、後期乳児期から子ども期にかけて脳梁の増加が著しかった。マーモセット特異的な特徴として子ども期には脳梁サイズが成体に達していること、チンパンジー特異的な特徴として子ども期にRostrumが急速に発達すること、ヒト特異的な特徴として乳児期にRostral body が著しく発達することが明らかとなった。Rostrumは注意に関わる前頭前野の投射を、Rostral bodyは行動制御、言語記憶、数概念に関わる前頭前野と前運動野の投射を受けていると考えられている。よって、これらの種間の発達様式の違いは、人類進化に伴う脳システムの変化と関連することが示唆された。 さらに、本年度は、海外特別研究員として、Johns Hopkins Universityにて、霊長類の脳発達アトラスの作成を行った。 本年度の研究成果として、2本の学術論文(Sakai et al., Neuroscience Research, 2017; Sakai et al., PLOSONE, 査読中)1本の著書を執筆し、1題の招待講演、1題の口頭発表を行った。
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