研究課題/領域番号 |
26870828
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
藤岡 優子(野田優子) 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (80399964)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | オートファジー / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
オートファジーは、栄養飢餓などに応じて、細胞が自身の構成成分である細胞質やオルガネラをリソソーム/液胞に輸送し、分解する現象である。ユビキチン様タンパク質Atg8は、リン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)を可逆的に結合し、オートファジーの膜伸長に直接関わる重要な分子である。働き終わったAtg8-PE結合体はプロテアーゼであるAtg4によって脱PE化され再利用されるが、不思議なことに、働いている最中のAtg8-PE結合体はAtg4の基質にはならない。本研究の目的は、Atg8の脱PE化がどのように制御されているのか明らかにすることである。そのために①Atg8-PEとAtg4の間の相互作用解析、②Atg4の活性の制御因子の同定、③これら複合体のX線結晶構造解析、を行う。またレジオネラ菌のRavZはAtg4と異なる様式でAtg8-PE結合体の脱PE化を行いオートファジーを阻害するが、④Atg4とRavZの立体構造の比較によって、これらの膜認識機構を明らかにする。 本年度はAtg8-PEとAtg4の間の相互作用解析に向けて、Atg8を各種人工膜上のPEに結合させたものを調製した。平面膜のモデルとしては脂質二重層を膜骨格タンパク質で囲むことで水溶性にしたナノディスクを調製した。調製に際しては膜脂質の組成の検討を繰り返した。その結果、In vitro Atg8結合反応系にナノディスクを用いることで、ナノディスク膜内のPEとAtg8を結合させる反応に成功した。引き続き、調製したAtg8-PE結合体含有ナノディスクについて、Atg4やRavZとの相互作用を詳細に解析する予定である。一方、RavZの結晶化は難航しており、今後もスクリーニング等を続けていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はAtg8-PEとAtg4の間の相互作用解析とRavZの立体構造の決定を計画していた。Atg8-PEとAtg4の間の相互作用解析に関しては、Atg8をin vitro結合反応によってリポソームやナノディスク等の各種人工膜上のPEに結合させたものを調製することに成功した。同時に平行して、Atg4の活性制御因子の同定を試みた。先行研究などからターゲットの制御因子の調製を試みたものの、活性を保持したタンパク質の調製に難航し、様々な種についてホモログの発現精製を検討した。同時に様々な種におけるin vitro Atg8結合反応系を構築した。その結果、活性を保持したターゲットとそれに対応するin vitro Atg8結合反応系を調製することに成功したので、今後はAtg8-PEとAtg4の間の相互作用解析と、ターゲットの活性制御因子が相互作用に与える影響を調べていく予定である。 一方、RavZについては発現、精製系は確立したものの、結晶は得られていない。今後も当初から予定していたようにドメイン解析などを行って発現方法を検討する他、様々な精製方法も検討しながら、引き続き結晶化スクリーニングを行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、in vitroでのAtg8-PE結合反応系に対し、Atg4を適切な濃度および条件で添加することで、Atg8-PEの脱結合反応を速度論的に解析できる系を確立する。次に、Atg4とAtg8-PEの相互作用を阻害する因子を同定し、脱結合反応系に添加し、阻害活性を速度論的に解析する。Atg4の脱PE化に対する特異的阻害因子の同定に成功したのちは、阻害状態を反映した複合体を調製し、X線結晶構造解析により詳細な阻害メカニズムを明らかにする。RavZの結晶構造解析については、プロテアーゼを用いた限定分解法や自然分解によって構造的に安定な小型化した複合体を調製し、再び結晶化条件のスクリーニングを始める。また哺乳類はAtg8ホモログを7種類持つことから、用いるAtg8の種類を変えることで結晶化の成功率を上げる。場合によってはリジン残基のアルキル化(メチル化、エチル化、イソプロピル化)を行い、タンパク質の性質(等電点、可溶性、疎水性)を変化させることによって、クリスタルパッキングの改善を試みる。 立体構造が得られた場合は、構造情報に基づきタンパク質間の相互作用を欠損させる点変異を導入したタンパク質を調製し、pull-downアッセイ等を行い、得られた立体構造の妥当性を判断する。さらにITC等を用いて定量的な結合実験を行い、変異がタンパク質間相互作用に与える影響を調べる。また、変異の影響をin vitro再構成系やin vivo(出芽酵母)で調べることで、各々のタンパク質間相互作用のオートファジーにおける役割を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
目的タンパク質の結晶が得られなかったため、放射光施設におけるデータ測定のための旅費を支出する必要がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
目的タンパク質の結晶が得られた時点で放射光施設への測定出張旅費として支出する。 また、研究結果がある程度まとまり次第、学会発表や論文投稿に関する費用として支出する。
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