研究課題
オートファジーは、栄養飢餓などに応じて、細胞が自身の構成成分である細胞質やオルガネラをリソソーム/液胞に輸送し、分解する現象である。ユビキチン様タンパク質Atg8は、リン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)を可逆的に結合し、オートファジーの膜伸長に直接関わる重要な分子である。働き終わったAtg8-PE結合体はプロテアーゼであるAtg4によって脱PE化され再利用されるが、不思議なことに、働いている最中のAtg8-PE結合体はAtg4の基質にはならない。本研究の目的は、Atg8の脱PE化がどのように制御されているのか明らかにすることである。そのために①Atg8-PEとAtg4の間の相互作用解析、②Atg4の活性の制御因子の同定、③これら複合体のX線結晶構造解析、を行う。またレジオネラ菌のRavZはAtg4と異なる様式でAtg8-PE結合体の脱PE化を行いオートファジーを阻害するが、④Atg4とRavZの立体構造の比較によって、これらの膜認識機構を明らかにする。本年度は主に、Atg4の活性制御因子の同定と、RavZの結晶化を行った。Atg4の活性制御因子の同定に関しては、前年度までに確立したin vitro Atg8結合反応系を用いて、先行研究などから想定した制御因子を単独、または様々な組み合わせで導入していき反応の進み具合を調べた。しかしこれまでのところ、Atg4の活性を制御していると思われる因子の同定には至っていない。また、RavZの結晶化も引き続き行っていたが、競合するグループによってRavZ単体の結晶構造が報告された。そこで今後はAtg4の活性制御因子の同定と、それら複合体の結晶構造解析を早急に進める予定である。
3: やや遅れている
上記の通り、本年度は主に、Atg4の活性制御因子の同定と、RavZの結晶化を行った。昨年度は先行研究などから想定した制御因子の調製を試みたが、活性を保持した制御因子候補を調製できた生物種と、in vitro Atg8結合反応系を確立できた生物種が異なっていた。本年度はさらに検討を重ね、同じ生物種で制御因子候補と結合反応系を確立することに成功した。しかし、予想に反して制御因子候補が活性を制御しておらず、今後も制御因子の同定を引き続き行うことになった。一方、RavZについては競合するグループによってRavZ単体の結晶構造が報告された。本研究の目的を明らかにするような構造ではなかったものの、今後はAtg4の活性制御因子の同定と、それら複合体の結晶構造解析を早急に進めるよう予定を変更する。
Atg4の活性制御因子の同定に関して、これまでは大腸菌で精製したタンパク質を用いており、リン酸化等の翻訳後修飾の影響は考慮していなかった。しかし、リン酸化によって結合状態が変化し、Atg4の活性の制御が行われることは十分に考えられる。最近昆虫細胞の発現系においてAtgタンパク質唯一のプロテインキナーゼであるAtg1を活性化状態で調製することに成功しており、このキナーゼを用いてターゲットの制御因子をリン酸化することが可能になった。今後はin vitro Atg8結合反応系とin vitro kinase assayを上手く融合させ、早急に活性制御因子の同定を行う予定である。同定後は阻害状態を反映した複合体を調製し、X線結晶構造解析により詳細な阻害メカニズムを明らかにする。Atg8やAtg4に関しては立体構造を既に決定しているので、それを参考にして試料を調製する。また、他のAtg因子についても既に構造決定しているものが多いので、有用なデータについては利用する。結晶化しなかった場合や良質な結晶が得られなかった場合は、プロテアーゼを用いた限定分解法や自然分解によって構造的に安定な小型化した複合体を調製し、再び結晶化条件のスクリーニングを始める。場合によってはリジン残基のアルキル化(メチル化、エチル化、イソプロピル化)を行い、タンパク質の性質(等電点、可溶性、疎水性)を変化させることによって、クリスタルパッキングの改善を試みる。
目的の結晶が得られず、構造解析用の試薬代や、大型放射光施設への出張旅費の支出が嵩まなかったため。
最近調製に成功したプロテインキナーゼは、昆虫細胞発現系からのみ発現精製できるが、発現精製のコストが非常に高い。このタンパク質の精製は本課題の成功の鍵であり、大量に調製して実験に用いたい。また、このタンパク質の調製により研究が大きく進展することが予想され、ターゲットタンパク質の同定や複合体の結晶化もすすむと考えられる。結晶化、回折データの収集にも費用がかかるので、前年度分を充当したい。
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http://www.bikaken.or.jp/