研究課題/領域番号 |
26870831
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
高村 歩美 鳥取大学, 医学部, 講師 (90508368)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ライソゾーム病 / リポフスチン / 脱パルミトイル化 |
研究実績の概要 |
ライソゾーム病である神経セロイドリポフスチン症(NCL)は、神経変性を伴う常染色体劣性遺伝病であり、14種類の遺伝的に異なるNCL(CLN1-14)が同定されている。ライソゾーム酵素であるPPT1(palmitoyl-protein thioesterase 1)遺伝子変異により発症するNCL(CLN1)はNCL の中でも発症頻度が高く治療法開発が急務である。神経細胞や繊維芽細胞、その他全身の細胞内に自家蛍光を発するリポフスチン(老化色素)が蓄積し、大脳、小脳の神経細胞変性や脳の萎縮が生じ、記憶障害・知的障害・視力障害・てんかん・運動障害など、臨床経過は多様性に富んでいる。 PPT1は、S-アシル化タンパクからパルミチン酸残基を取り除く脱パルミトイル化酵素である。パルミトイル化は、タンパク質の疎水性を上昇させて細胞膜との親和性を高める役割をしている。その後、PPT1によりタンパク質が脱パルミトイル化されると、タンパク質は別の細胞内小器官の膜へ移動し、再びパルミトイル化によって膜に留まる。このパルミトイル化-脱パルミトイル化のサイクルによって制御を受けているシグナル分子は、神経系のみを挙げても数十種類に及ぶ。このような複雑性がこの疾患の病態解明と、根治療法の確立を困難にしている。 我々が診断した日本人兄弟例で同定されたヘテロ接合性のPPT1遺伝子変異では、細胞内のPPT1のプロセシングと局在に変化が生じており、特に脂質ラフト分画に凝集していることをこれまでに明らかにしている。したがって、単純なPPT1ノックアウトマウスの解析では見えてこない変異型PPT1が引き起こす細胞内シグナル経路の異常に注目する必要がある。本研究では、PPT1遺伝子に1塩基変異を持つCLN1疾患モデル細胞の樹立を行い、樹立細胞並びにCLN1患者皮膚繊維芽細胞における変異型PPT1の発現量、発現局在の解析により、脱パルミトイル化により制御を受けるシグナル因子との関連性を探索する事を目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本人におけるcommon mutationの存在は明らかではないため、我々が日本人患者で同定した新規1カ所を含む計2変異、ならびに比較的CLN1の発症率が高いフィンランド、イギリス、トルコでcommon mutationとして挙げられている3変異(T75P、R122W、R151X)を有する発現ベクターの構築が完了し、一過性発現でPPT1活性の有意な低下を確認することができた。薬剤によるセレクションを行いpermanent cell lineの構築が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
CLN1疾患モデル細胞の機能解析を行う。①神経分化誘導可能な細胞を用いているため、形態的変化を測定する。また、②ライソゾーム病やアルツハイマー病など、蓄積病と呼ばれる神経疾患では最終的にタンパク質分解系に異常をきたしているという報告が数多くあるため、タンパク質分解系に着目する。③PPT1の遺伝子変異が、パルミトイル化-脱パルミトイル化による細胞内のタンパク質輸送の制御にどのような変化をもたらしているかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養装置の入れ替えにより、培養ができない期間があった。そのため、培養に関わる消耗品や試薬の消費が計画より少なく、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
疾患モデルのパーマネント細胞株の構築のため、培養用の試薬や消耗品を購入する予定である。
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