研究課題/領域番号 |
26870831
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
高村 歩美 鳥取大学, 医学部, 講師 (90508368)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ライソゾーム病 / 神経セロイドリポフスチン症 / 脱パルミトイル化酵素 / リポフスチン / 脱パルミトイル化 |
研究実績の概要 |
神経セロイドリポフスチン症(NCL)は、神経変性を伴う常染色体劣性遺伝病である。ライソゾーム酵素であるPPT1(palmitoyl-protein thioesterase 1)遺伝子変異により発症するⅠ型(CLN1)はNCL の中でも発症頻度が高い。全身の細胞内にリポフスチンが蓄積し、神経細胞変性や脳萎縮が生じる。PPT1は、S-アシル化タンパクからパルミチン酸残基を取り除く酵素であり、日本人で同定した2変異、ならびにヨーロッパのcommon mutationとして挙げられている3変異(T75P、R122W、R151X)を有するpermanent cell lineの構築を行った。人工蛍光基質を用いたPPT1酵素活性は、変異型で有意に低下しており、疾患モデル細胞とした。リポフスチン蓄積は、タンパク質の品質管理機構や分解系の異常を示唆していることからERストレス、オートファジー、ユビキチン‐プロテアソーム系のマーカータンパク質の発現を検討した。ERストレスのマーカーであるeIF2αのリン酸化の低下と、オートファゴソームのマーカーであるLC3 -Ⅰならびに-Ⅱの発現低下が確認された。これらの因子はパルミトイル化を受けるという報告はなく、これらの上流に位置する、もしくは関連するタンパク質の網羅的なパルミトイル化修飾の検出が必要となった。 そこで、脱パルミトイル化酵素PPT1の欠損が、細胞全体のパルミトイル化にどのように影響を及ぼしているのかを検討するため、パルミトイル化されたシステインをビオチン標識するacyl-biotinyl exchange assay (ABE assay)を行った。パルミトイル化タンパク質を精製しSDS-PAGE後、ゲル染色を行ったところ、疾患モデル細胞でパルミトイル化が亢進していた(R122W: 2.1倍、R151X: 2.4倍、E184K: 1.9倍)。さらに、変異型PPT1細胞株でのみ検出されるパルミトイル化タンパク質の存在も明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CLN1のpermanent cell lineの構築が完了しPPT1活性の有意な低下を確認した。本疾患の病理学的所見から示唆されるタンパク質の品質管理機構や分解系の異常に着目した機能解析を行った。さらに、神経系のみを挙げても数十種類にも及ぶパルミトイル化タンパク質の中で、CLN1の病態の最も強い惹起分子を特定すべく、ABE assayによる精製検体のプロテオーム解析が現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
疾患モデル細胞のパルミトイル化タンパク質のLC-MS/MSを行い、包括的なプロテオーム解析を行う。疾患関連タンパク質群を捉え、イムノアッセイ(ELISA、免疫染色、イムノブロッティング)によって確認する。それらをリカバリーする化合物(拮抗薬や作動薬)遺伝子ノックダウンやノックインによる遺伝子工学的アプローチの治療的効果について、培養細胞を用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、CLN1では臨床所見の類似点から、アルツハイマー型認知症の病態惹起因子であるオリゴマーAβの取込み機構の亢進を予想していたが、それを担う受容体の発現には変化が無かったことから、網羅的なプロテオーム解析を先に行うべきであると判断した。したがって、Aβペプチドの購入数を減らし、プロテオーム解析に使用する試薬類を購入したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は、プロテオーム解析の受託研究費とサンプル調整に必要な酵素・試薬類購入に充てることを計画している。
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