父島乾性低木林に生育するシャリンバイとテリハハマボウを用いて乾燥に伴う樹木の生理特性の変化の個体差を調べた。2016年の夏は本プロジェクトの中で最も乾燥しており、気象庁データをもとに降水量と可能蒸発量の差を計算すると、2016年は10年に一度の強い乾燥年であることが分かった。このような強い乾燥下では葉を落とす個体も現れ、6月、8月、11月、2月に追跡調査を行うと、8月に葉を落とした個体の中で台風等でも湿潤環境におかれる11月には復活して展葉がみられる個体と見られない個体があった。 このように乾燥ストレスを受けても降雨後に復活する個体と復活しない個体があることから、どういう要因がその分岐点を決定するのかを調べた。前年度の成果から乾燥による枝枯れに関して、木部に糖が存在することが降雨後の通水回復に寄与している可能性が示唆されたので、本実験でも糖を中心に調べた。すると、同一種内でも枝に糖が多く含まれる個体では強度乾燥後も復活する確率が高く、糖が少ない個体では復活する確率が相対的に低かった。このことから光合成低下や枝伸長・開花結実への資源投資等の様々な要因で生じる、枝木部の糖含量の種内個体差は強度乾燥後の降雨に際して通水回復や個体の生存率にも影響する可能性があることが示唆された。 また種間差に着目すると、テリハハマボウは乾燥に対して通水機能が低下し、落葉も頻繁にみられたが、降雨後には通水回復し再展葉もみられた。一方、シャリンバイは乾燥に伴う通水機能低下や落葉はあまりみられなかったが、降雨後にも乾燥影響が長期にわたり残り、11月や2月になって落葉が見られる個体もあった。シャリンバイは木部の柔細胞割合が低く、糖含量も低いことから降雨後の回復機能がうまく発揮できない樹種であることが示唆された。
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