最終年度は、豊後水道沿岸域の二次林や放棄段畑などに分布の知られるアオギリの分布経緯に関する分析を進め、論文を公表した。加えて昨年まで進めていた放棄された柑橘果樹園、防風生垣、果樹園と隣接する森林の林縁部という3つの微環境を対象に植生調査を追加した。その結果クズの繁茂が宇和海沿岸の放棄果樹園に広く生じていること、地域の農業従事者からもクズの問題が広く認識され、営農上の障害となっていることが示唆された。クズの繁茂は関東平野の野菜を中心とした慣行栽培の営まれてきた畑地の放棄後にも発生しており、異なる地域、農法において同一種の繁茂が進行しつつある実態が明らかとなった。昨年度に追加で実施していた水稲作付前の田面の植物相の調査をおよび各圃場の耕起の有無や土壌の理化学性の調査の結果について、植物相リストおよび植物種多様性と耕起の関係を整理し、資料として報告した。 全期間を通して、第一の目的としていた段畑景観の植生景観の変容については、高度経済成長期以降の耕作放棄後の植生変化パターンの分析およびかつての有用植物の例としてアオギリに着目し、本種の利用停止後の生育状況の分析によって、過去数世紀の資源利用が今日みられる植生景観にもその影響を色濃く残すこと、これに伴い地域内の植物種組成が変化に富んだものとなっていることが明らかとなった。今後、追加で行った近年放棄された柑橘園の植生変化の特徴等についても引き続き調査、分析を進め、人間活動と植生景観変容の関係性について明らかにしていきたい。
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