研究課題
本研究では、安価かつ汎用性の高い新規癌治療法の創出に向け、抗体医薬と同様の機能を発現する無機材料を合成し、癌細胞を用いた機能評価を行うことを目的としている。具体的には、癌細胞増殖を引き起こす物質(リガンド)の形状や表面特性を模倣した無機酸化物ナノ粒子を合成し、癌細胞膜上に発現する受容体に、リガンドに代わって結合させることで、腫瘍悪性化の抑制を試みるものである。初年度は、肺癌細胞等に高発現する上皮成長因子受容体(EGFR)のEGF結合領域にフィットする表面形状・特性およびサイズのナノ粒子を合成するため、粒子合成システムの構築・最適化を試みた。EGF はEGFRの特定領域(数~十数 nm サイズ)と、静電相互作用および疎水性相互作用により特異的に結合することが明らかにされており、これら条件を満たす粒子を合成することが必要となる。詳細な検討の結果、申請者が以前に開発・報告した核形成/粒子成長分離型の粒子合成システムをベースに、これを多段階化することで、より広い範囲におけるサイズ設計性、組成設計性を実現する指針を得ることに成功した。既にサイズ10 nm~30 nm程度の酸化物系無機有機ハイブリッドナノ粒子が再現性良く得られることを確認しており、論文2報を投稿準備中である。さらに、サイズに加えてEGF結合領域との親和性の鍵となり得る疎水性官能基および正の電荷源として、オクタデシル基およびアミノ基の導入について検討し、これら官能基で機能化したナノ粒子を得ることにも成功している。ナノ粒子と細胞の相互作用に関する研究に関しても検討を進めており、論文1報を投稿準備中、他に論文1報がACS Applied Materials & Interfaces誌に掲載済みである(doi:10.1021/am500636d)。
1: 当初の計画以上に進展している
申請書に記載した研究目的を達成するためには、大きく分けて以下の2点を実現する必要がある。①多様な表面形状の無機ナノ粒子合成、②無機ナノ粒子-EGFR 間相互作用の解析。既にナノ粒子合成に用いる多段階合成システムを構築し、想定していたナノ粒子の合成に成功している。当該合成システムは様々な組成の材料に対しても適用可能な高い汎用性を備えており、申請書に記載した酸化物系の材料のみならず、将来的には金属やポリマーなども含め広く網羅的な検討を行うことが可能になると考えている。このことに加え、予備的にチタニア系粒子と細胞との相互作用や細胞毒性についての検討を既に開始しており、本研究計画を実施する上で重要となる知見を着実に積み上げている。これらの点を踏まえると、本研究目的の達成度はきわめて良好であり、当初予定した計画に沿う形で、想定を上回る速度で進展していると考える。
上述したように、初年度に予定していた研究計画の主要部分を既に実現した。加えて、次年度の内容に関する検討も開始することができており、進捗状況は非常に良好と考えている。したがって、基本的には研究実施計画に記載した流れに沿って、研究を推進する予定である。具体的には、既に合成法を確立したナノ粒子をEGFR が高発現したヒト肺腺癌細胞(A549)に添加し、ナノ粒子-EGFR 間結合の形成を、種々の生化学・組織学的手法により確認する。次いで、ナノ粒子がEGFR と結合することで癌細胞に生じる影響について、①細胞増殖速度の変化、②アポトーシスの有無など、標準的な評価手法を採用し、詳細に検討する。上記ナノ粒子がどのような「薬効」を発現するかに加え、「いつ効く」についても定量的に明らかにするため、最近申請者が研究対象としている膜型表面応力センサーを用いた観察も同時に実施する。これは膜表面に生じる応力を、従来の同種センサーと比較して100 倍以上高感度かつリアルタイムに検出できる新規センサーである。膜表面に細胞を培養したセンサーを用いることで、ナノ粒子添加に伴い細胞に生じる時間変化を把握することが可能となる(例えば、細胞が死ねば剥がれるため、応力が減少する)。膜表面に細胞を培養できることは予備実験により確認した。以上、従来の方法に加え、最先端の計測システムをも利用することにより、盤石の体制で研究の遂行にあたる。最近、ナノ粒子に鉄をドープできることも見出しており、この点についても検討する予定である。磁性粒子が交流磁界中で発熱することを利用した温熱療法に対する注目が集まっていることから、癌細胞がナノ粒子を取り込み、様々な過程を経て細胞死に至るような受動的な治療に加え、細胞選択的に加温して積極的に細胞死を誘導するような能動的な治療法との併用可能性についても検討を進める。
次年度使用額が生じた主たる理由は、人件費・謝金およびその他として予備的に計上した予算によるものである。特に人件費については他の予算により賄うことができているため、翌年度分として請求するに至った。
次年度においても人件費・謝金、その他を予備的に計上することとするが、主に年度後半の人件費として、確保・使用する予定である。余剰金が発生した場合、試薬・物品費等として適切に執行する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件)
ACS Applied Materials & Interfaces
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doi:10.1021/am500636d
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http://www.nims.go.jp/news/archive/2015/02/hdfqf10000069vss.html