研究課題/領域番号 |
26870839
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
ソムファイ タマス 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産草地研究所家畜育種繁殖研究領域, 主任研究員 (90547720)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ガラス化保存 / 遺伝子発現 / ブタ / 卵子 / レドックス状態 / 成熟培地 / 胚発生 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
最初に、異なる浸透性凍結防止剤、糖類について、組合せと濃度に関して検討し、未成熟ブタ卵丘細胞卵子複合体のガラス化における凍結防止剤処置方法を最適化した。最も費用対効果がよい凍結防止剤処置法は、2%エチレングリコール、2%プロピレングリコール添加溶液で5~15分間の平衡後、17.5%エチレングリコール、17.5%プロピレングリコール、0.3Mスクロース添加溶液でガラス化する方法であった。これより高い平衡液中の凍結防止剤濃度またはDMSOには毒性作用が認められ、また、トレハロースは、スクロースに置き換えることができた。これは、未成熟卵子の低コストかつ80%以上の生存率が得られる方法である。この方法を使って、ガラス化の有無による生存卵子の細胞質の状態を比較した。体外成熟を通して、細胞質中の天然酸化防止剤であるグルタチオンやATPレベルに関して違いは認められず、卵子の代謝やレドックス状態はガラス化による影響を受けないことが明らかになった。しかし、ガラス化は、膜のAnnexin V発現頻度の著しい増加によって示される卵子のアポトーシスを誘導した。また、ガラス化は、1mMのジブチリルcAMP存在下でさえ、卵子の約20%で核成熟を早めて卵子の老化をまねくことを明らかにした。さらに、ガラス化が卵核胞期の核小体のフラグメンテーションを引き起こすが、核小体は体外成熟培養により回復することを明らかにした。また、ガラス化およびガラス化処理を行わない非ガラス化区の卵子と卵丘細胞における網羅的mRNA発現をマイクロアレイにより分析し、ガラス化卵子においては、738個の遺伝子の発現が高まり、1058個は低下し、卵丘細胞においては、1107個の遺伝子の発現が高まり、1378個が低下することを明らかにした。これらの遺伝子については解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
技術的な問題と予備試験の結果により、研究計画を一部変更した。予備試験の結果から、(4)卵子のミトコンドリアによる評価、(6)成熟培地への添加物の比較試験は中止し、平成26年度計画にはない実験(1、5、8、9)を実施した。(1)凍結防止剤処置に関するガラス化プロトコルの最適化を最初に実施し、コスト削減と生存性の向上が可能なプロトコルを決定した。(2)mRNA発現のマイクロアレイ分析を開始し、結果のとりまとめとRTqPCRによる確認を実施中である。ただし、数百個の卵子が1回の分析に必要であったことやRNA品質の問題(品質低下)等による技術的問題のため進行が遅れている。(3)ギャップジャンクションの解析は、技術的な困難はあるが進行中である。(4)ガラス化の有無による卵子中ATPレベルに差は認められないことから、ミトコンドリアによるさらなる評価は中止した。(5)平成27年実施予定の卵子中グルタチオンレベルによるレドックス状態の解析を実施した。(6)ATPレベルやレドックス状態に関して異常が認められなかったことから、成熟培地の違いやアセチル-L-カルニチン添加効果の検討は中止し、成分既知培地である体外成熟用POM培地を使用することとした。(7)上記の同じ理由で、成熟培地の違いによるガラス化保存卵子の発生能の比較については検討を中止した。研究計画にはないが、(8)ガラス化の有無による卵子の核の減数分裂の進行速度について検討するとともに、(9)Alexa Fluor 488 Annexin V/Dead Cell Apoptosisキットを用いて、アポトーシス分析を行った。得られた研究成果については、学会等において発表するとともに、論文原稿を作成中である。以上のことから、平成26年度は、おおむね順調に進展し、研究計画と同等の成果が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最優先事項はマイクロアレイによる分析を行うとともに、RTqPCRにより候補遺伝子を選定することである。また、免疫染色によって卵子と卵丘細胞間でのtranszonal projectionsの分析を行うとともに、ガラス化保存後の卵丘細胞の膨化の正常性を調査する。さらに、卵丘細胞のレドックス状態や卵丘細胞および卵子のアポトーシスの誘導等の予備試験またはマイクロアレイの結果から、体外成熟培地への酸化防止及びアポトーシス抑制剤であるレスベラトロル添加がガラス化卵子の加温後の体外受精による胚発生に及ぼす影響を検討する。また、ガラス化により、核成熟スピードの促進と高いアポトーシス発生を引き起こしうる細胞質内のCa2+放出が行われていると考えられることから、ガラス化・加温中のCa2+ブロッカー(BAPTA)あるいはミトコンドリア膜孔抑制剤(シクロスポリンA)が、これらの現象を抑制し胚発生能を向上させうるかを検討する。これらの処理により胚発生能を著しく向上させることができれば、移植試験により産子への発生能を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額243,545円は、技術的な問題のために平成26年度はマイクロアレイ分析を1回しか行えなかったことと、研究費を効率的に使用して発生した残額である。
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次年度使用額の使用計画 |
最新の価格では、マイクロアレイ分析は1回400,000円以上かかることから、課題遂行のため、平成27年度予算とあわせてマイクロアレイ分析等に使用する予定である。
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