本研究では、ヤギを実験動物として、ターゲットトキシンであるサポリン複合体を用いて弓状核キスペプチンニューロンより分泌される因子の機能を特異的に阻害し、GnRH分泌のパルス頻度の制御に関わるキスペプチンニューロンの生理機能を明らかにすることを目的とした。 前年度の成果より、ニューロキニンB(NKB)がGnRHのパルス状分泌を誘導する役割を担い、NKBはNK3受容体を介して作用していることが明らかとなった。また、NK3受容体が弓状核においてキスペプチンニューロン上に発現していることから、NK3受容体をターゲットとしたサポリン複合体(NK3-SAP)を弓状核に投与することでキスペプチンニューロンの機能を阻害できることが示唆された。 そこで、NK3-SAPをヤギの弓状核へ投与した際の繁殖機能に及ぼす影響を解析した。NK3-SAPを弓状核へ10 ng/100 nl投与し、投与前、投与後7、14、21日後のLH濃度を計測した。その結果、LHパルスの頻度に影響はないものの、振幅が減少する傾向が見られた。また、投与21日後に脳組織を灌流固定法により採取し、弓状核のキスペプチンニューロンの免疫陽性反応を調べた結果、陽性細胞数が減少する傾向が見られた。 これらのことから、弓状核キスペプチンニューロンを完全に破壊するためには、より多くのNK3-SAPを弓状核の複数箇所へ投与することが必要ではあるが、弓状核キスペプチンニューロンがLH分泌の制御に関与していることを支持する結果が得られ、繁殖機能の制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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