昨年度、Cas9を恒常的に発現するトランスジェニック系統を作製したが、その系統にguide RNAを注入しても標的ゲノム領域を切断することはできなかった。 本年度は方向転換をし、CRISPR/Cas9システムを利用した新たな遺伝子解析方法の開発に取り組んだ。具体的には内在遺伝子の開始コドン付近に蛍光タンパク質遺伝子を挿入することで標的遺伝子の発現領域の可視化と機能阻害を同時に行う方法を開発した。標的遺伝子としてはすでに変異体の表現型が明らかであるpax2a遺伝子を選択した。 私たちはCRISPR/Cas9によって切断されるMbait領域、ヒートショックプロモーター、GFPを含むプラスミドDNAをドナーベクターとして使用した。ドナーベクターをpax2a-gRNA、Mbait-gRNA、Cas9 mRNAとともにゼブラフィッシュ1細胞期胚へと注入したところ、眼柄、中脳後脳境界、耳胞、後脳および脊髄ニューロンといった内在pax2aが発現する領域でGFPの発現が観察された。実際にpax2a遺伝子座にGFPが挿入されていることはPCRジェノタイピングとシークエンス解析により確認した。その後、GFP陽性ゼブラフィッシュを成魚へと成長させTg(pax2a-hs:GFP)系統を樹立した。さらにヘテロのTg(pax2a-hs:GFP)系統同士を掛け合わせることでTg(pax2a-hs:GFP)系統ホモ個体の解析を行った。ホモTg(pax2a-hs:GFP)ゼブラフィッシュはpax2a変異体と同様にMHBの欠損を示した。したがって、蛍光タンパク質の挿入により内在遺伝子の破壊が行えることが明らかになった。蛍光タンパク質の挿入による遺伝子機能阻害はスクリーニングの容易さや異常のある器官を同定しやすいといった利点から今後、新たな変異体の作製方法として普及することが期待される。
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