研究課題/領域番号 |
26870846
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐藤 亘 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (90610395)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / タンパク質品質管理 / 細胞内凝集体 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)はアミロイドβ(Aβ)蓄積からなる老人斑と過リン酸化状態の微小管結合タンパク・タウからなる神経原線維変化(NFT)により特徴づけられる神経変性疾患である。これまでの研究から、Aβ蓄積からNFT形成を経て神経変性に至るという「アミロイド仮説」が提唱されているが、これら二つの病理の間をつなぐ病理カスケードについては不明なままである。一方、分子シャペロンを介したタンパク質品質管理機構の破たんは神経変性疾患の引き金になると考えられる。最近の研究から、分子コシャペロンであるFKBP5がHSP90との相互作用により神経細胞内のタンパク質異常凝集、特にタウ凝集を促進する可能性が示された。 本研究では、我々が作製したADモデルマウス(Saito et al., Nat. Neurosci., 2014)・APPノックイン(APP-KI)マウスとFKBP5過剰発現(FKBP5-Tg)マウスの交配マウス(FKBP5-Tg x APP-KIマウス)を用いて、FKBP5がタウ凝集の促進とそれに伴う神経変性の増悪化を引き起こす可能性を検討した。解析にはAPP-KIマウス脳においてAβの十分な蓄積がみられる12か月齢、15か月齢のAPP-KIマウスとFKBP5-Tg x APP-KIマウスを用いた。解析にあたり、両者においてAβの蓄積に違いがないことをELISA法および免疫組織染色により確認した。タウについてウェスタンブロットならびに免疫組織染色により調べたところ12か月齢では顕著な差は認められなかったが、15か月齢のFKBP5-Tg x APP-KIマウスの大脳皮質では同月齢のAPP-KIマウスに比べて総タウ量の増加が認められた。同時にタウのリン酸化状態を調べたが、大きな変化はみられなかった。また、ガリアス銀染色によりNFT形成の有無を調べたが、15か月齢においてNFTは認められなかった。一方、海馬においてはいずれの現象にも顕著な変化は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで研究計画通りに解析が進んでおり、15か月齢のFKBP5-Tg x APP-KIマウスにおいては大脳皮質における総タウ量の増加を認めた。この結果から、FKBP5の過剰発現がタウの安定性に影響する可能性が示された。一方、リン酸化タウやNFTの形成などADでみられる病理像は認められなかった。また、海馬においてはいずれの現象もみられなかった。 APP-KIマウスおよびFKBP5-Tg x APP-KIマウスの加齢は順調に進んでおり今後の解析に供する個体数は確保できていることから、研究遂行に問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きin vivo解析により、加齢マウス(18か月、24か月)におけるタウの量的・質的変化(特にリン酸化)、NFT形成などの病理像について生化学的・組織化学的に検討していく。一連のin vivo解析終了後は、細胞レベルにおいて再現性を確認する。さらに、パスウェイ解析などのバイオインフォマティクスを駆使し、細胞内メカニズムの解析を行っていく。
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