研究課題
腸管寄生蠕虫は、粘膜付近で特殊な免疫応答を誘導し、自らの寄生適応のため宿主免疫を抑制すると同時に、アレルギー反応など有害な免疫応答をも抑制することが示唆されている。しかし、腸管という場の複雑さも手伝い、この特徴的な免疫応答がどのように誘導されるかは分かってない。本研究では小腸パイエル板に存在する特殊な腸管上皮細胞であるM細胞に着目し、粘膜を起点として感染する寄生虫感染に与えるM細胞の影響を明らかにすることを目的として研究を行った。方法は、M細胞のマスター転写因子であるSpi-Bを欠損させたマウスに腸管寄生蠕虫であるHeligmosomoides polygyrus (Hp)を感染させることで解析を行った。昨年度までに我々はSpi-B欠損マウスでは寄生虫感染に対し抵抗性を示すこと、そして骨髄キメラマウスを用いた解析により、その抵抗性は骨髄由来の細胞に依存していることを明らかにした。つまりSpi-B感染で認められたHp感染に対する抵抗性は、M細胞非依存的であることを見出した。今年度はSpi-B欠損マウスの骨髄細胞を詳細に解析したところ、Spi-B欠損マウスではcommon myeloid progenitors(CMP)からgranulocyte macrophage progenitors(GMP)への分化が亢進しており、顆粒球系の増加が認められた。更に顆粒球の中でも肥満細胞の増加がHp感染に対する抵抗性に寄与していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までにSpi-B欠損マウスにおけるHp感染に対する抵抗性は、M細胞ではなく骨髄由来の細胞依存的に認められることを明らかにした。本年度は、Spi-B欠損マウスの骨髄細胞を詳細に解析することで、Spi-BがM細胞の分化だけでなく顆粒球系細胞の分化にも関与し、さらに顆粒球の中でも肥満細胞がHp感染に対する抵抗性に寄与していることを明らかにした。
今後、肥満細胞がHp感染時にどのように機能しているのか、肥満細胞の活性化メカニズムについて詳細に解析していく予定である。肥満細胞は寄生虫感染だけでなくアレルギー応答にも重要な役割を担う細胞として知られている。肥満細胞の詳細な活性化メカニズム、消化管寄生虫感染に対する防御免疫応答を明らかにすることは、寄生虫感染症だけでなくアレルギー疾患の新たな治療につながる可能性がある。
マウスを十分に繁殖させたことからマウスの購入代が予定より少なくすんだ。
来年度は、多くの学会に参加することで様々な分野の研究者と深くディスカッションさせて頂く機会を設け、本研究をよりよい論文に仕上げる予定である。
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