本研究は,日本語音声言語を専門的に扱う職業(音声学者,日本語教師,言語聴覚士,アナウンサー,音声鑑定人など)に就く日本語母語話者を対象とした音響特徴の聴取訓練プログラムを開発することを目的としている.音楽経験のある聴取者の方が音響特徴の聴取成績がいい点に注目し,音感(音の高さ,強さ,音色の感覚)の訓練を導入することにより,音響特徴の聴取成績が向上するかどうかを検証した.対象となる音響特徴は,予備実験の結果,特に苦手意識を持つ人が多かった日本語のアクセントパターンとした. 20歳~40歳代の日本語母語話者35名を,訓練群(アクセントおよび音感訓練を実施する群)と非訓練群(アクセント課題のみを実施する群)に分け,1~2ヶ月おきに最低2回,最大4回,実験を実施した.全聴取者の初回の実験結果から,日本語母語話者による日本語アクセントの知覚は,弁別より識別が困難であり,特に識別では能力の個人差が大きいことが分かった.さらに,アクセントの聴取成績は,音感のうち音の高さの弁別と正の相関があることも示された.複数回の実験結果を群間で比較したところ,群間差は有意ではなく,音感訓練の有効性は確認できなかった. しかしながら,訓練の効果自体は有意であり,どの群においても,実験の回を重ねるごとに,アクセントの聴取成績は向上した.日本語音声言語を専門とする職業に就く場合,音の高さの聴取能力が高い方が,日本語アクセントの聴取には有利であるものの,1~2ヶ月に一度のアクセント聴取訓練(20分程度)を続けることで,アクセントの聴取能力が向上することが示唆された. 最終年度は,以上の結果を論文にまとめて投稿し,採録が決定した.
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