研究課題/領域番号 |
26870866
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研究機関 | 公益財団法人日本分析センター |
研究代表者 |
山口 友理恵 公益財団法人日本分析センター, その他部局等, 研究員 (30639977)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | BNCT / BPA / BSH / ホウ素 / ICP-MS / 血液 / 同位体比 |
研究実績の概要 |
難治性がんに対して有効な治療手段として期待されているホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy, BNCT)において、安全かつ効果的な治療を行うには、患者に付与する照射線量および照射時間を決定する必要があり、そのためには血液中B-10濃度の迅速かつ精確な測定が不可欠となる。治療に用いられるB-10濃縮薬剤には僅かながらB-11が含まれることから、精確な定量を行うためには、B-10とB-11を識別することが望ましい。 本研究では、①血液から腫瘍細胞へと移行する際の血中B-10/B-11同位体比の変化の把握 ②血漿⇔血球におけるB-10及びB-11の分布の把握を主目的とし、同位体比の情報が得られる高分解能誘導結合プラズマ質量分析装置(HR-ICP-MS)の使用を基本とした血液中の高精度ホウ素同位体比測定法の確立を目指している。 平成26年度は、血中B-10濃度を迅速かつ精確に定量するための血液試料前処理方法として、開放系及び密閉系による湿式分解法を比較・検討した。両手法の(1)迅速性及び(2)精確さの評価のためにホウ素添加回収試験を実施した結果、下記の通り、密閉系処理が優れていることが確認された。(1)供試量が少量であれば、分析に要する総時間は両者ともに1時間弱と大きな相違はなかったが、開放系の場合は、供試量の増加とともに分解に要する時間も増大していく傾向にあった。(2)開放系の場合は得られたホウ素回収率は50~70%と著しく低かった一方で、密閉系においてはおおよそ98%以上と良好な結果が得られた。 以上の結果より、迅速かつ精確なB-10濃度計測が求められる本研究においては、血液試料の前処理方法として、ホウ素の損失及び外部からの混入の可能性が極めて低く、かつ効率良く確実に血液試料を分解することのできる密閉系処理が適していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は当初の計画通り、既に確立済みであるHR-ICP-MSによるホウ素定量法の血液試料への適用性を調べるために、前処理方法の検討試験を行った。さらに、ホットプレート酸分解法による開放系処理とマイクロ波試料分解法による密閉系処理の比較検討試験を行った。 検討の結果、酸分解処理を施した血液試料であればHR-ICP-MS装置に導入可能であること、加えて血液中に含まれるマトリックス元素(Na・K・Ca・Mg・Cl・P等)はホウ素定量上影響を及ぼさないことが確認された。従って、メンブレンフィルター等によるろ過操作や共存元素からの妨害回避のための目的元素の分離抽出操作が不要となり、迅速化及び簡便化に向けて一歩前進したといえる。 一方、開放系及び密閉系の比較については、分析に要する総時間や得られたホウ素回収率等より総合的に判断した結果、密閉系による処理が血液中のホウ素定量の前処理法として最適であることが確認された。よって、次年度からの迅速化に向けた基本方針が固まったといえる。 平成26年度に得られた研究成果については、国際学会(16th International Congress on Neutron Capture Therapy)において口頭発表を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
将来的には、分析に係る一連の作業を医療従事者が行うことが想定されるため、臨床応用の実現のためにも、前処理方法については更なる迅速化及び簡便化を図っていく必要がある。平成27年度は、これまでに得られた結果を踏まえ、密閉系処理を基本とした前処理法の最適化を図っていく予定である。具体的には、加熱時間、供試量、酸試薬量、分解容器の冷却方法等の最適化を図ることで、実際の臨床試験にも適用可能な迅速性、簡便性、及び操作性に優れた手法の確立を目指す。なお、分析手法確立のための検証試験を行う際には、同一条件下で分解操作を複数回実施することにより繰り返し精度を確認することで、分析者によるバイアスを未然に防ぐこととする。最終的には、確立した手法の臨床応用への適用性を評価する予定である。 また、生体内におけるホウ素の動態解明のため、確立した手法を用いて、BNCTの臨床研究に多用されるBPA(p-boronophenylalanine)とBSH(sodium borocaptate)の両薬剤を単剤及び併用投与した場合を想定し、血液・血漿・血球の実試料あるいは模擬試料を用いて基礎データの取得を行うことも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の予算執行において繰り越しが生じた理由は、当初の計画で購入予定であった消耗品類(試薬類、超純水製造用カートリッジ類)は別途の経費で購入したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、血液前処理法の迅速化及び簡便化に向けた検討試験を行うため、試薬類(標準液を含む)、器具類、HR-ICP-MS測定用アルゴンガスといった分析に係る消耗品類等が必要となる。また、取得した研究成果を学会等で発表するための国内及び外国旅費も計上している。 なお、本研究は、公益財団法人日本分析センター(千葉市)とBNCTの研究施設である「いばらき中性子医療研究センター」(茨城県東海村)にて実施しているため、上述場所の移動に伴う旅費にも充てる予定である。
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