研究課題/領域番号 |
26870873
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
石原 朋子 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (30450555)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 食中毒 / 病原細菌 |
研究実績の概要 |
現在、原因不明として報告される食中毒の推定原因細菌については、既知の病原因子が検出されない、または検出された細菌による症状が当該食中毒症状と異なる等の理由から病原細菌と特定することが困難である。一部の原因不明食中毒については、メタゲノム解析により従来の分離同定法で検出できない原因細菌を推測できるものの、病原性評価および病原因子の同定・解析にまで至る事例は少ない。そこで、従来の分離同定法で推定された、もしくはメタゲノム解析により推定し分離された原因不明食中毒の原因細菌について病原性の評価を行った。 推定原因細菌は宿主細胞に何らかの影響を与えることが推測されることから、まず始めにヒト由来の培養上皮細胞を用いて感染実験を行い、原因細菌の細胞毒性および細胞付着・侵入性を評価した。本研究においては、異なる食中毒事例から分離された2種類の推定原因細菌がともに大腸菌であったことから、下痢原性大腸菌の感染実験系の方法に準じて評価を行った。その結果、これらの原因細菌は細胞侵入性を認めなかったが、細胞付着・侵入能を有しない非病原性の大腸菌に比較すると有意に細胞付着することが認められた。一方、有意な感染細胞の細胞死および形態異常を認めず、実施した実験条件においては細胞毒性を認めなかった。 メタゲノム解析により推定された原因細菌については大部分のゲノム情報をすでに得ているが、下痢原性大腸菌として特定するための既知の病原因子は認められなかった。また、従来の分離同定法で推定された原因細菌についてもゲノム情報の取得を行った。このゲノム情報を基にORF予測およびBLAST解析を実施したが、下痢原性大腸菌の既知の病原因子は認められなかった。 以上のことから、2種類の推定原因細菌には新規の病原因子および病原性発揮メカニズムを持つ可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト由来の培養上皮細胞に対する当該細菌の細胞付着性が認められており、これは当該細菌のよる初期の感染様式を明らかにする上で重要な知見となる。また、新たに1種類の原因細菌のゲノム情報を取得したことから、2種類の大腸菌ゲノム情報について比較解析等を行うことが可能となった。細胞毒性の評価に関しては、現在の実験系および条件では評価できないため検討が必要である。 上記の現状を考え合わせて、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト由来の培養上皮細胞に対する当該細菌の細胞付着性が認められていることから、初期の感染様式を解明する。下痢原性大腸菌は、毒素を保有・分泌することによって病原性を発揮する他、腸管上皮細胞に対する付着・侵入を行う過程あるいはその後の増殖によって腸管上皮細胞を傷害し病原性を発揮するものが存在する。今後は、後者の可能性も視野に入れ、当該細菌について病原性の評価、評価方法の確立を目指す。 メタゲノム解析により当該細菌の大部分のゲノム情報が得られている。既知の病原因子は認められないが、既知の病原因子の遺伝子配列との類似性が低い可能性もあるため、今後は部分的な類似配列も探索の対象とする。また、2種類の当該細菌ゲノム情報について比較解析し、共通の遺伝子領域等について病原性への関与を評価することを予定する。 当該細菌を含む原因不明食中毒の推定原因細菌について、病原性の評価を行うことによって新規の病原細菌として位置づけ、病原因子の同定・解析、新規病原細菌感染メカニズムの解明および検査法・予防対策の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム情報未取得であった当該細菌のゲノム情報の取得と解析に時間を要したため、その後の各種解析に予定していた消耗品等の使用量が予想を下回った。また、研究開始時においてはゲノム解析の結果から既知の遺伝子を検出し解析する場合も想定して使用計画を立てたが、既知の遺伝子を確認できなかったため解析に至らなかったことも使用額が予想を下回った一因となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降、今後の研究の推進方策に従い引き続き適切に予算を執行していく予定である。
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