研究課題
前年度の研究成果として、第二世代抗精神病薬を投与したマウスの海馬でテロメアの伸長が確認された。第二世代抗精神病薬は様々な受容体に対する拮抗作用を介してその治療効果を有することが知られている。そこで本年度は第二世代抗精神病薬のどの受容体に対する拮抗作用が海馬でのテロメア伸長をもたらしたのか明らかにすることに注力した。まず、簡単に検討をつけるために、各抗精神病薬と受容体との結合力とテロメア伸長効果の間の相関を確認したところ、5-HT1D、5-HT2A、alpha2受容体の拮抗作用がテロメア伸長に関与する可能性が示唆された。そこで、つぎにこれら受容体に対する選択的な拮抗薬を野生型マウスに連続投与し、海馬テロメア長への影響を評価したところ、5-HT2A受容体に対する拮抗薬でのみテロメアの伸長作用が認められた。さらに、5-HT2A受容体アンタゴニストの投与により、海馬でのBDNF量の増加、及びテロメア伸長酵素であるテロメラーゼの発現を増加させ、テロメア伸長を引き起こしていることがわかった。また、BDNF受容体のひとつであるTrkBのアゴニストを投与してもテロメラーゼの発現が増加したことから、5-HT2A受容体の拮抗作用はBDNFの増加、テロメラーゼ発現増加を介して、テロメア伸長に関与している可能性が示唆された。さらに、ストレス負荷がテロメア短縮をもたらす分子メカニズムを同定するために、前年度確立した社会的隔離飼育マウスから海馬を単離し、PCR-arrayによってテロメア関連遺伝子の網羅的な発現解析を行った。その結果、5つのテロメア関連遺伝子において有意な発現変動を見出した。
2: おおむね順調に進展している
概ね順調である。計画通りに、テロメア短縮に関わる責任遺伝子の同定を行えたことは大きな進展である。さらに第二世代抗精神病薬がテロメア伸長に関わる分子機序について明らかにできたことは、今後の研究の発展と方向性に大きく寄与する結果だと感じている。
来年度以降は、確立した統合失調症モデルマウスに、抗精神病薬及び各種拮抗薬を投与することにより、テロメア短縮という病態が統合失調症のどのような症状に関与しているのかについて検討を行う。また、コルチコステロンなどストレスホルモンを投与することで、ストレスとテロメア短縮の間の分子メカニズムについて更に詳細に検討を行う予定である。
予定していた学会参加などを取りやめたため、旅費が申請額よりも少なく済んだ。また、予定されていたsiRNA発現ベクターなどを用いる実験は実験の都合上、来年度以降に行うことになったため、その実験に係る物品費が少なく済んだ。
上述のsiRNAを用いた実験を来年度に行う予定であるので、差引き額分は来年度に物品費として使用する予定である。また、データも蓄積されてきたため、論文発表の準備とともに学会への参加も予定しており、旅費としても使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
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