研究課題
新生児マウスにおいてLPCAT3は、調べた9臓器(脳、胸腺、心臓、肺、肝臓、脾臓、胃、腸、腎臓)のうち腸での発現が最も高く、腸では胎児期から新生児期にかけてその発現が上昇することがわかった。またLPCAT3遺伝子欠損マウスにおいて、脂質解析をおこなった全9臓器でアラキドン酸を含むリン脂質が減少していることも明らかとなった。これは先攻研究におけるin vitroでの酵素活性測定の結果と一致しており、生体内においてもLPCAT3が機能していることが証明できた。加えて各組織における発現量に関わらずリン脂質組成の変動がみられたことから、LPCAT3があらゆる組織で働いている可能性が示唆された。さらに組織解析や生化学解析を行ったところ、生後1日目のLPCAT3遺伝子欠損マウス小腸では、大量の脂質(中性脂質:トリグリセリド)が蓄積していることが明らかになった。また胎児期の肝臓においてもトリグリセリドの蓄積が観察された。これはLPCAT3により局所で生合成されるアラキドン酸含有リン脂質が、リポタンパク質への効率的なトリグリセリドの取り込みに関係しているため、遺伝子欠損マウスではリポタンパク質へ取り込まれなかった過剰なトリグリセリドが蓄積してしまうと考えられる。以上の結果から、LPCAT3遺伝子欠損マウスが生後一週間以内に死亡してしまう原因として、小腸におけるトリグリセリド蓄積による小腸の機能不全や、さらにそれにより引き起こされる低血糖(栄養吸収障害)が原因であると推察される。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画とおり、組織解析や脂質解析などからLPCAT3遺伝子欠損マウスの新生児致死の原因(小腸の機能不全、低血糖)の一端を明らかにすることができた。さらに、これはLPCAT3が担うリン脂質代謝がリポタンパク質の輸送機構に関係しているためであることがわかり、これまで知られていない新しい機構を示唆することができた。これらの結果から、LPCAT3が新生児期の生命維持(栄養吸収)に重要な役割を担っていることが示せた。また、LPCAT3が生体内の広範囲な組織において機能していることも明らかにできた。現在、上述のように明らかとなった内容を記載した論文を投稿中である。
上記の投稿中論文について、審査員からのコメントが届き、現在追加実験と改訂を行っているところである。早急にこの論文を最終投稿し仕上げる予定である。本研究より明らかになったLPCAT3のリポタンパク質輸送機構への寄与は、新生児期のみならず成人でも関わっていると考えられ、生命維持の重要な役割を果たしていると推察される。そのため、全身性もしくは小腸、肝臓特異的なコンディショナルノックアウトマウスを作製し解析を行うことを計画している。また、LPCAT3が広範囲で発現していることやその発現がそれほど高くない組織においてもLPCAT3遺伝子欠損マウスでリン脂質組成の劇的な変化が見られたことなどから、これまで着目してきた小腸や肝臓以外の組織においても重要な機能を果たしている可能性が考えられる。したがって、今後は全身性のコンディショナルノックアウトマウスを用いて、他臓器におけるLPCAT3の役割についても検討していく予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
J Lipid Res
巻: 55 ページ: 1386-1396
巻: 55 ページ: 799-807
10.1194/jlr.R046094