研究課題/領域番号 |
26870880
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研究機関 | 独立行政法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
半田 浩 独立行政法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 上級研究員 (30707451)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細菌感染 |
研究実績の概要 |
感染症は長年人類の死因の1位であったが、ペニシリンの発見から始まった抗菌薬の開発・発展により感染症による死者は著しく減少した。しかしながら、近年の世界的な耐性菌の増加により細菌感染の脅威が高まっており、新規の抗菌薬の開発は急務である。既存の抗菌薬を改良した新薬を開発しても細菌は数年で耐性を獲得することから、これまでとは異なる作用機序をもつ抗菌薬の開発が必要と考えられる。そのために、細菌を標的とするのではなく、宿主因子を標的とした抗菌薬を開発すれば耐性菌の出現は極めて低いと推測される。それ故に広範囲の病原細菌の感染成立に必要である宿主因子の探索を行った。 細菌感染成立に関与している宿主因子のスクリーニングはRNAi法を用いた。宿主因子のノックダウンは、shRNAを用い、ウイルスベクターを利用しshRNA安定発現細胞を樹立した。ノックダウンの確認はウエスタンブロット法もしくはqPCR法により行い、目的のタンパク質がノックダウンされていることを確認した後、感染実験を行った。最初のスクリーニングはリステリアを用いてプラークアッセイによりリステリア感染に重要である宿主因子の探索を行った。細胞骨格制御に関与している宿主因子を中心にノックダウン細胞を樹立しリステリア感染実験を行った結果、リステリア感染に関与している宿主因子が複数同定された。さらに、同定された宿主因子が他の病原細菌の感染成立に関与しているのか検討した結果、サルモネラや腸管病原性大腸菌の感染成立にも関与することが示唆される結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度の一番重要な達成目標はリステリア感染に関与している宿主因子を同定することである。RNAi法を用いて宿主の細胞骨格形成に重要な因子をノックダウンしてスクリーニングを行った。その結果、リステリア感染成立に関与している宿主因子を複数同定することが出来たことから、初年度の目標は達成されたと考えている。 さらに、スクリーニングによりリステリア感染に関与している宿主因子が他の病原微生物であるサルモネラや腸管病原性大腸菌にも関与していることを示唆する結果が得られたことは予想以上の成果であると思われる。しかしながら、スクリーニングに使用するshRNA安定発現細胞樹立に手間取り、初年度において終えるはずであったスクリーニングがまだ完全に終了していないのが反省点である。今年度は、残りのノックダウン細胞株を可及的速やかに樹立し予定していたスクリーニングを全部終えることを優先したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、得られた宿主因子がどのように各病原細菌の感染成立に関与しているのか、そして病原細菌はどのように宿主因子を制御し、感染成立に利用しているのか、に焦点を当てて解析を行っていく。 リステリア感染は宿主細胞への侵入・増殖・拡散と区別できるので、同定した宿主因子がどの場面で感染に関与しているのかを検討する。宿主細胞への侵入と細胞内増殖評価にはゲンタマイシンプロテクションアッセイを用いる。拡散に必要な細胞内運動と隣接細胞への感染は免疫染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡にて観察することで評価する。次に、リステリア感染条件下におけるリステリアと同定した宿主因子の局在を免疫染色と共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察する。さらに、他の病原因子への影響も同様に観察する。すでにサルモネラと腸管病原性大腸菌は感染成立に同定した宿主因子が関与してことを示唆する結果が得られていることから、リステリアと同様にどの感染場面において関与しているかを検討する。サルモネラ感染では宿主細胞への侵入評価に加えて宿主細胞内の局在・増殖の評価を行う。侵入評価はリステリアと同様にゲンタマイシンプロテクションアッセイを用いる。宿主細胞内の増殖と局在は免疫染色を行い共焦点レーザー顕微鏡で観察することで評価する。腸管病原性大腸菌は宿主細胞に侵入せず細胞表面と強固に結合することから、付着アッセイにより付着効率を評価する。また、免疫染色を行い腸管病原性大腸菌が形成する台座構造への影響を共焦点レーザー顕微鏡にて観察すると共に、極性細胞における細胞接着への影響も観察する。さらに、同定した宿主因子のシグナル伝達経路を明らかとし、病原細菌の感染制御解明を行うと共に、他の病原細菌感染にも重要であるか確認する。最終的には、広範囲な病原微生物感染に関与していることを明らかとして、分子標的薬候補として次のステップに繋げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、物品費用の購入が予定よりも少なかったこと、予定していた実験の一部が遂行できなかったことが挙げられる。しかし、遂行できなかった実験は次年度に行うため物品費は予定よりも多くなることから、総費用は予定通りになると考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した費用は、予定していたが遂行できなかった実験に必要な試薬を購入するために使用する
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